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この世界の片隅にのmitakosamaのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0
まず始めに超自慢。クラウドファンディングに参加しているので、100年残る映画のエンドロールの片隅に名前があります。“MITAKOSAMA”とお探しください。
制作支援10,000円は安い買い物でしたわ。これほどの映画が出来上がり、公開から半年経った今も賞レースの快進撃が未だに楽しめる。

現在6回ほど劇場で見た。
公開初日_呆然、帰宅後号泣。
2回目・3回目_友人と見てオープニングから号泣。
4回目・5回目_泣くのを我慢して細かいディティールを確認
6回目_やっぱりオープニングから号泣。
未だに、普段から“みぎてのうた”を思い出しては涙で頬を濡らす日常が続く。こんな映画今まで無かったわ。

尋常じゃないレベルの時代考証に基づくディティール、“のん”の神がかったキャスティング、同じく神がかってマッチしたコトリンゴの音楽、冴え渡る演出、テンポの良さ、全てが上手くハマった。
完成まで6年かかったが、天の時・地の利・人の和が揃うに必要な時間だったと判る。

監督は「70年前の広島も、今と同じ地続きの世界の片隅なのだ」と主張して、その為に嘘の無い徹底した時代考証の必然性を説明した。
昔も今も同じ世界なんだよ、と。
一方で哲が「お前だけはこの世界で普通であってくれ」と言うように、やっぱり戦争という時代は“普通じゃない”ということがポイントなのだと思う。

それが、この映画で一番ショッキングかもしれないシーン、周作さんが夜にすずさんと哲を二人きりにしてしまう場面。あれって言わば“女房を貸す”行為なのだから。
何故か。言うても哲はお国の為に戦う海軍の兵隊であり、周作は海軍で働くとはいえ書記の様な仕事。戦時中では死にゆく者に優先権が与えられるという“普通じゃない”時代。
あの時代、世界の片隅では普通じゃない事態が起きていたからこそ、哲はすずさんに普通であることの大切さを説いたのよね。
またあのシーンで、周作が自分の希望ですずさんを嫁に迎えたが故に、すずと哲の初恋を実らせられなかったという負い目。さらに周作自体が決して運動神経が良く無いなどのコンプレックスもあり、複雑な男性心理を見事に表した場面だと思う。
原作者のこうの史代は、女性ながらよくあの心理描写を描けたと思うわ。

今更言うまでも無いのかもしれないが、例えば食料配給不足のシーンに昆虫が樹液を吸うカットが入るなどの演出の上手さ。
「うちはようぼうっとした子じゃあいわれとって」というすずさんだが、お嫁入り先で一生懸命に家事に勤しむが、竈に直に水をかけるなど、実は結構ミスをしているだとか。
「あの時左手で晴海さんと手を繋いででいたら…」と悔やむすずさんだが、原爆で死んだ母は子供を守ったが自身の右手と共に命も失ったということとか。
周作との出会いで描かれる人さらいのバケモンはすずの空想だが、すずと周作は戦災孤児の子を“攫って”帰るということとか。

全てはそこにすずさんが生きているからこそ愛おしい。単なるアニメのキャラクターが、映画を見た者の中で今も息づいている。

なんかオープニングで物思いにふけて佇んでいるすずさんの優しい笑みに、そんな思いの全てがつまってる気がして、序盤から泣けて仕方が無い。

どこにでも宿る愛。多くの人をそうしたように、僕も生涯ベスト映画の1本になりました。
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