このレビューはネタバレを含みます
“戦争しよっても蝉は鳴く。蝶も飛ぶ”
人も同じだ。戦争していても、人は日々を営んでいかなければならない。
みんなが笑って暮らせればいい、というささやかな願いを胸に。
能年玲奈ののんきな声と、“じゃけぇ”という広島弁の語感。ホッとひと笑いできる人と人のやり取り。
やさしい水彩風の絵のタッチ。
そして、目を背けたくなるほどむごたらしい現実。酸鼻を極める戦争の傷跡。
“おまえだけは、普通でおってくれ”
いつまで耐えればいいのか。
どこまで我慢すれば。
“ともかくよかった、あんたが生きとって”
“熱が下がってよかった”
“よかったのォ、不発で”
“消し止められてよかった”
“治りが早よぅてよかった”
ーどこがどうよかったんか、
うちにはさっぱりわからんー
能年玲奈ののんきな声は、やがて物事の核心をつく正直な心の訴えとなり、見る者の琴線に触れる。
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本作が公開された年、日本は『君の名は。』フィーバーだった。だが、映画評論家や文化人は、本作の方を推していた。
どちらもいい映画だと思う。
どちらもいい映画だ。
そんなことを、気軽に言えるこの世界こそ、すず達の望んでいた普通の幸せなんだと、再確認できる。
公開:2016年
監督:片渕須直
音楽:コトリンゴ
受賞:日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞、キネマ旬報ベストテン第1位ほか。