J四郎

湯を沸かすほどの熱い愛のJ四郎のレビュー・感想・評価

湯を沸かすほどの熱い愛(2016年製作の映画)
4.0
この映画は評判が良い事だけ知っており、あまりどういう作品か知らずに観ました。
ベタに泣かせに来るよくある邦画か?と思っていたけど、これはやられました。

最初、ほぼ終わりかけている家族が出て来る。
うわ、コレは暗い話になるんちゃうか?とイヤな予感がよぎった。
追い打ちをかけるように、宮沢りえ演じる母は余命少ない末期がんと告げられる。
しかし、そこからこの母親の見事な終活がはじまる。

衰えゆく体に反し、実に生命力に溢れる戦いで、それは常に家族の事を考えている。
そのエネルギッシュさはどっちかというと洋画でよくみる親の姿に近いかな?
立ちはだかる問題を全て体当たりでぶち破ってゆく。

この人、本当に聖人みたいで自分が居なくなったときに備えて、次々と段取りをしてゆきます。あまりに出来過ぎるので、ひょっとしたら男をダメにしてしまうタイプかも?
夫のオダギリジョーが、最初なんじゃコイツは?クズか?って感じのダメダメ野郎で登場するし。
あと途中で松坂桃李が登場するけど、この映画はちょっと残念な男ばかりやな。桃李、お前、子供の前でなんちゅう話しとんねんっ。

あ、そいや気になったのが、娘2人連れて旅をするところで、あの体調で運転って大丈夫なんか??と。そこは引っかかった。

悲しい話だけど、けっこう淡々と進む。
さりげな~くユーモアも盛り込まれていて、吐いたシーンでテンパった男子学生が「牛乳です!」と言ったのには笑った。
それにしても母親が渡した(子供っぽい)勝負下着がああいう活躍をするとは。

この映画は宮沢りえの演技に尽きる。
力強いけど品のある母親像で、逆境にいる子供たちに最初にかける一言にこの人のやさしさが顕れている。
そして後半のあるシーンで自分が不安なとき、他人を気遣うような場面がある。ひょっとしたら家族のため奔走するのも不安の裏返しって部分もあるのかも?
それを踏まえると、終盤のあるシーンで一瞬、本音を吐露するところは泣けます。

近年、がんで知人を見送ったので、弱っていく描写は観ていて辛いもんがありました。その方も最後に見舞いに行ったとき、自分の方が辛いだろうに人の事ばかり気にかけてました。

よくあるお涙頂戴のためドラマチックに盛り上げるタイプではない。
母の終活を通じて、いびつだけど形を取り戻していく”家族”を描いているのだな~と思った。ただ悲しいだけじゃない、元気ももらえます。
メインの母子、宮沢りえ、杉咲花の演技も素晴らしい。
派手さは無いが、これはなかなかの良作じゃないでしょうか。
J四郎

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