サマセット7

シン・エヴァンゲリオン劇場版のサマセット7のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

ヱヴァンゲリオン新劇場版、8年ぶりの第4作品目。
監督・脚本はシリーズ通じて、映画「シン・ゴジラ」やTVアニメ「不思議の海のナディア」「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明。

前作の結末を受け、今作では、崩壊後の世界の在り様と、人類の補完を目指す碇ゲンドウ率いるNERVと、これを阻止せんとする葛城ミサト率いるWILLEとの決戦を描く。
シンジ、レイ(仮)、アスカ、マリら少年少女は、物語の果て、どこから来て、どこに向かうのか。

基本、レビューで決定的なネタバレはしたくないのだが、今作は例外。
何を書いてもネタバレになる。

TVアニメ、旧劇場版、新劇場版ときて、今作。
日本のアニメの歴史において、言わずと知れた最重要シリーズの一つ。
もはや、他に何を言うことがあろうか。

一般的評価や見どころは、今作に限っては省略。
エヴァは、一般的な評価や見どころを語れるタイプの作品ではない。

以下、作品テーマについての雑感のみ。
私は、このシリーズについて、大人になれない/なりたくない子ども=アニメオタクが、それでも大人になろうとすること=リアルの社会に参加することの、逡巡と葛藤を描いた作品、と理解していた。

庵野秀明監督は、30代でTVアニメ版新世紀エヴァンゲリオンと旧劇場版を発表。
それぞれ、ラストは、かなり斬新なもので、当時のファンを阿鼻叫喚の混迷に陥れた。

その後、庵野監督は、42歳で結婚、46歳で新劇場版の製作に取り掛かっている。
今作の発表時点で、61歳。
今作のストーリーには、はっきりと庵野監督自身の人生の充実と年齢を刻むことで得た境地が滲み出ている。

そんな今作のテーマは、以下のようなものではないか。
1、その日その日を、地に足つけて、食べて寝て働いて、一生懸命生きること自体を肯定する。
2、各キャラクターたちに、納得できる結末を示す。
3、少年が大人になる過程、つまり、父と母を、親としてでなく、1人の人間として理解して、受け入れる過程を描く。
4、やっぱり奥さんとの生活は、最高だよ!!!!!奥さん、ありがとう!!!!by庵野監督

今作が、これまでになく、優しく、祝祭感のある作品になったのは、庵野監督が結婚して家庭を持った影響が大きいように思う。
新劇場版シリーズと旧シリーズの最大の違いは、マリという超前向きなキャラクターの存在の有無に依るところが大きい。
このキャラクターが、誰の投影か、今作のラストシーンを観た今となっては明らかなように思うのである。

あらゆる多様性が進んだ今の時代、もはや、アニメオタクという概念を用いて、社会への参加を論じる必要はなくなった。
自分が何者か、とか、何のために生きるのか、とか、父との対立、とか、母の喪失、とか、そういう難しい問題を、悩んでも、悩まなくても、その日その日を、今、そばにいる人に頼り頼られながら、一生懸命生きてれば、なんとかなるよ。
そんなメッセージを感じた。

明日から、また頑張ろう、そう思える、万感の終劇であった。
なお、庵野監督の幸せな夫婦生活の一端は、奥様である安野モヨコ先生の漫画「監督不行届」で知ることができる。
単作として面白いので、未読なら是非。