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ファンキーランドのNMのレビュー・感想・評価

ファンキーランド(2012年製作の映画)
3.3
ややB級風なジャケットからは想像がつかないが、作りは存外きちんとしている。単純でもないし、クスリの件を除いても子ども向けではない。
原題は『Why Stop Now』。個人的に冒頭では単に、なぜ今すぐやめないんだ、というような意味だと思った。しかしラストでは微妙に意味が違っているように思えた。

主人公イーライはスーパーで働きつつ、ピアニストを目指してオーディションを受け続けている。夢はあるもののいつも自分に自信がない。才能を信じて励ましてくれる人もいるというのに。
パーティーで悪酔いするシーンで感じるが、本当は自信のある人間になりたいはず。

そんな中でも一人だけイーライを心配してくれる女の子がいる。
お互い意識しているようだが、イーライは自信のなさから諦めている様子。

ピアノの実力はなかなか披露されないが、才能を買ってくれている人がいる。

父親はいないようだ。
母ペニーはイーライの強い勧めで、薬物と酒を絶つため更生施設に入ることに。
手のかかる9才の妹が一人。母の依存症は特にこの妹に悪影響を与えたと語られる。
イーライも人生を犠牲にしている。

母が入所予定の日。
イーライは、母を送ったあと大事なオーディションを控えていた。名門音楽学校の進学審査、枠は一人だけ。
合格すれば家を離れることになるが、母を一人にするのは不安。そのためにも更生してもらう必要がある。

当日、コーヒーとタバコに頼ることで何とかクスリを控えていた母は入所前検査で引っかからず、条件を満たさなかった。
イーライと母は、施設担当員の入れ知恵に従い、なんと一旦クスリを買って摂取してから再度施設に申し込むことに。
だが母はツケが溜まっていてクスリ屋には入れない。
仕方なくイーライが付き添うことに。

行きつけのクスリ屋に行くと、品切れ中。早く欲しいのに困った。
クスリ屋が仕入れに行くのをイーライが通訳として付き添い、みんなでクスリの入手を目指す……。

クスリ屋と元締めとの間に挟まれてイーライは寿命が縮む思い。両者とも話が通じるようなやつらではない。
大事な手にも怪我を負ってしまう。

だがその売人兄弟と過ごすうち奇妙な絆が生まれ、恐ろしく見えていた二人の印象は最後には大きく変わる。ここも見どころ。

ぎゃあぎゃあ騒ぐ人ばかり登場し、毎回話が色々とこじれる。

そして頼りない母の持つ、彼女なりの愛情の強さ。
クスリにハマってしまうのは悪い人だけ、弱い人だけ、というのは間違いだと感じる。ふとしたきっかけで転落してしまう。

売人たちもこんな商売をしながら非常に母親を大事にしているのが面白い。そのお陰でみんななかなか憎みきれない。
イーライ家の滞った問題に荒療治で刺激を与えてくれもする。
それぞれ価値観は大きく違うが、共通点だっていくつもあるという当たり前のことを教えてくれる。

また、収入の少ない家庭がどれだけ苦労を強いられるか、環境によってチャンスを奪われているか、という社会問題を提示してもいる。売人たち黒人も。
そんな環境に生まれても才能を活かす機会をつかめたら、というアメリカンドリームを思わせるストーリー。

ピアノ演奏は最後までほぼ出ないのでその分ラストは感動する。
シンプルなラストだが、それまではちゃめちゃだったので、反動でぐっと来る。

エンドロールには、「Why Stop Now?」と映る。原題に「?」が付いている。なぜ今止めなければいけないのか。分かっているか?止める覚悟はあるか?という、イーライだけでなく何か悪い状況に捕らわれている人に向けて改めて問うているように感じた。

吹替えもさらっと見てみたがそちらは混乱具合がより際立っていて何人も一緒に喋る。宜しくない言葉はよりまろやかに訳されている。


メモ
オキシコンティン……重病患者向けの協力な鎮痛剤。ドラッグとして使用されることも多く問題となっている。
母の車にあった薬物。
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