小波norisuke

神様の思し召しの小波norisukeのレビュー・感想・評価

神様の思し召し(2015年製作の映画)
4.5
カトリック教徒が多いイタリアでは、神父は尊敬される職業だと思っていたが、無神論者である主人公にとっては、息子が神父になるということは、どうにも堪え難いことのようである。確かに自分が空疎だと思うことに、息子が人生を捧げるとなると、失望する気持ちもわからなくはない。

有能な外科医である主人公は、自信家で、職場でも家庭でも、ずけずけと思ったことを口にする。しかし、息子が神父になりたいと告げても、あまりに思いがけず、タイミングを逸したこともあってか、面と向かっては反対出来ない。しかし、もし頭ごなしに反対しても、息子は納得しなかっただろう。まずは、自分のように医師になることを目指していたはずの息子が、なぜ心がわりしたのかを理解しようと努める主人公の姿勢はとても懸命だ。

息子を「洗脳」した神父は、主人公の目には、たいそう胡散臭く映る。私もびっくりしたが、確かにこの神父は、 厳粛な聖職者のイメージからは程遠く、 若者が多く集う集会で話す言葉も、非常にカジュアルだ。しかし、聖職者に対して言うのは憚るべき言葉であろうが、若者に慕われるのも頷ける、とてもナイスガイなのだ。

神も奇跡も信じない、頑ななエリート医師と、犯罪歴のある気さくな神父が起こすケミストリー。これがもう、何とも可笑しくて、温かくて、最高だ。

医師と神父以外の登場人物も、皆とても魅力的である。カフェで医師に話しかけられただけで言い訳してしまう看護師さん。主人公一家に冷ややかに接する家政婦さん。どちらも、絶妙なキャラクターだ。

ずっと笑って観ていたが、最後にほろりと涙がこぼれた。たとえ神などいないと固く信じていても、神にすがりたくなる瞬間は、きっと誰にでも訪れるのではないか。

それにしても、キリスト教あるあるだが、聖書を初めて読む人にとって「マタイの福音書」の冒頭はやっぱり辛い。私は「ルカの福音書」がオススメだと思うのだが、いかがかしら。
小波norisuke

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