さく

永い言い訳のさくのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
5.0
絶対音感(ぜったいおんかん、英語:perfect pitch)は、ある音(純音および楽音)を単独に聴いたときに、その音の高さ(音高)を記憶に基づいて絶対的に認識する能力である。『Wikipedia』

という言葉が音楽においてはありますが、西川美和監督は、「絶対映画感」みたいなのを持っているのではないかと思えるくらい隙がない作品でした。
原作・脚本まで自分でこなし、聞くところによると(本人の出演はないけれど)現場で演技指導みたいなのすると下手な役者よりもうまいみたいな評判もあるそうで。あまつさえ、容姿的にも端麗だし、何なんですかね? 地球外生命体ですかね?

冗談(半分本気)はさておき、(ダメ)人間のディープな部分まで踏み込みつつ、大衆性を失わないバランス感覚は本当に筆舌に尽くしがたい。「映画には一分一秒たりとも無駄なシーンなどない」とはよく言ったもので、だけど現実的には「そうは言ってもね(笑)」みたいなもんだと思うんですけど、最初から最後までそう感じるような巧みさを感じでむしろ怖くなりました。一つ一つを技術的に論じるような知識も知恵も私には備わっておりませので「あまりにも抽象的すぎてわからん」と思われるでしょうけど。

私でも説明できるようなわかりやすい一例を挙げると、夏の炎天下でシャボン玉で遊んでいる子供、一際大きなシャボン玉が空へ向かって飛んでいくのを下から仰ぐように撮って、弾ける...でカットした次のシーンでは大きな花火が夜空で弾ける...と、またカット割って次のシーンでは一転して地面に横たわるセミのシーンで「夏の終わり」を告げる。一歩間違えると非常にこっ恥ずかしい映像になりそうですけれど、余計なものを排除して淡々とテンポよく魅せることで、季節の移り変わりが自然と伝わってくる。

ここに限らず、普通の何気ないシーンの一つ一つが物凄く丁寧に撮られているのでそれほど次々事件が起こらなくとも飽きずに、眠くならずに観ていられるんですよね。こういう丁寧な撮り方はなんとなく是枝裕和監督に通ずるものが...と思いながら観ていたら、エンドロールで名前が出てきました。企画協力みたいな書き方だったのでどこまで作品に関わっているのかわかりませんが。

物語についてとか、役者についてとか、子役の使い方(これもうまい)とか、語りだすとロシア文学くらいのボリュウムになりそうなのでここら辺で止めておきます。
さく

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