もちもち

バービーのもちもちのネタバレレビュー・内容・結末

バービー(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

全てが完璧な「バービーランド」。女性達が社会の中心となり、華やかで理想的な毎日を送るバービー。しかし、ある日彼女の体に異変が起こり、バービーはケンと共に人間の世界「リアルワールド」へ向かうことになるが、そこは全てが真逆の世界だった。ビジュアルのポップさとは裏腹に、鋭くエッジの効いたフェミニズムが秀逸なプロットで描かれる社会派の映画。女性差別やフェミニズムのジェンダー問題を、コメディというベールで包みながら非常に上手く表現した傑作。バービー人形というおもちゃは「女性だって何者にでもなれる!」というメッセージを持ったいわばフェミニズム的なものでありながら、「スレンダーでセクシーな白人ブロンド女性」という女性の美に関するステレオタイプを築き、アンチフェミニズム的な役割も担ってしまった二面性を持っている。この二面性のストーリーへの落とし込み方がすばらしい。バービー人形という題材を巧みに使いながら、ジェンダー問題を重層的に描き出し、それを笑いと感動でまとめつつ、見終わった後にしっかり考えさせられてしまうのはほんとにすごい作品だと思う。
ストーリーについて。バービーランドはだいぶ誇張されてはいるが現実世界とは男女の立場が真逆の世界であり、そこからリアルワールドへ行くことで、家父長制が色濃く残り、男性優位的な現代社会の問題点を効果的に際立たせている。女性を性的な対象として軽々しくセクハラ発言をする男性、重役に男性ばかりの企業等々。そしてバービー自身も自分の持ち主であるサーシャからアイデンティティの破壊を受ける。バービー人形が女性に与えた負の影響を辛辣に述べられ、「あなたの存在がフェミニズムを50年遅らせた」とまで言われてしまう(公式の映画でよくこんなこと言うなという驚き)。バービーランドでは引き立て役でしかない男性のケンがリアルワールドでバービーとは真逆の影響を受けていく二重構造もよくできている。敬語で話しかけられたり、男性が様々な仕事に就いていたり、当たり前だと思っていたことが当たり前ではなかったと気付く彼の姿は、まさしく(男女が逆転した)フェミニズムの目覚めである。ただし彼が自覚していくのは「有害な男性性」であることも笑いと風刺が効いた絶妙な展開。そしてケンのその後の行動はバービーランドを男性社会へと変貌させていくもので、明らかにやりすぎ。まさしく一部の過激なフェミニズムを揶揄しているようだった。フェミニズムとは「女性にも男性と同じく権利と自由を」というのが本来の思想で、男性を虐げることだったり女性が男性を支配することではない。男女ともにそこの考え方が飛躍しがちであることも一つの問題であり、それを上手く表現したような展開だった。そして有害な男社会と成り果てたケンダムの様も風刺が効いている。マッチョイズム的な考えに囚われたケン達の服装や行動は滑稽。女性のことを自身の価値を上げてくれる存在として、女性を従えることをステータスとしているところや何でも教えてあげようとするところなど、有害な男性性の描き方もリアル。そして何も考えないのが楽だからと、男性に従ってしまうバービー達の様も滑稽。でも実際ここまでじゃないけど近い考え方で生きてる女性だっているのだ。そして劇中、最も印象的なサーシャの母グロリアのスピーチシーン。女性であること生きづらさを赤裸々に強く訴える言葉は男性の自分でも十分刺さったし、女性なら尚更だろう。痩せた体型でいないといけないけど痩せすぎてるとセクシーじゃないとか、食事の誘いを普通に断るのは可愛げがないし飛びつけば軽い女に見られるとか、女性のリアルで抽象的な抑圧を分かりやすく表現していた。ケン達の洗脳からバービー達を解放していくときの、ケン達への誘惑の仕方も表現が面白くてリアル。機械に弱いふりをするとか、ゴッドファーザーについて語らせるとか、投資に疎いふりをするとか、笑っちゃうんだけど分かるわーってなってしまう。女性の抑圧も有害な男性性も描き方が凄く巧みで、女性が作った作品なんだと実感させられる。男性が作った作品なら誘惑の仕方なんて安易に性的なものにしちゃうだろう。
全体通して、男性のステレオタイプ的な愚かさを単純に悪だと否定するのではなく、「あなた自身の誇れるものを見つけて、自分自身であることに自信を持って!」というメッセージにするところが単なるフェミニズムの映画ではない。フェミニズムをテーマにした映画ではあるんだけど、1番のテーマは「何者でもない自分でも愛そう」というところにあり、グレタ・ガーヴィグらしさというか、短絡的なフェミニズムを押し付ける訳ではないところがすばらしくて深い。ジェンダー問題を描きながらも、この映画が伝えてくれるのはステレオタイプからの脱却とアイデンティティの確立なのだ。ある意味これはバービーの映画でありながらケンの映画でもある。これが単なるフェミニズム映画に見えてしまう人もいることは、男性の自分からしても驚きだし、そういう人はやはり無意識に女性蔑視の価値観が染みついちゃってるんだろう。映画の感想はもちろん人それぞれでいいんだけど、やはりこれは男も女も見て、一緒に感想を語り合うべき作品だと思う。世界観の完璧な作り込み、現代社会との対比が見事な色彩の使い方、「2001年宇宙の旅」も丸パクリしたりする少々過激なジョークの面白さ、マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリングのパフォーマンス、ストーリー意外も全て最高だった。
もちもち

もちもち