よねっきー

バービーのよねっきーのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.7
意外にも(というと語弊がありそうだけど)、男として生まれ、男として育てられた自分が「こういう映画を待ってた!」と思える映画だった。「これは自分の話だ」と、直感的に理解することのできる映画だった。なんかそこに、映画の希望を見た気がして、感動してしまった。

この映画において男(=ケン)は、決して悪役ではない。倒されるべきヴィランではないし、乗り越えられるべき障害でもない。劇中の言葉通り「Ken is just Ken」だ。男がただ男であり、女がただ女であるように、ケンはただ、ケンなのである。

劇中描かれる男性陣たちが滑稽なんだが、同時にキュートでもあるのが、めちゃくちゃありがたいことだなあと思った。これ、映画の手触りを良くする上でかなり気を遣った部分なんじゃないかと思う。なんというか、飽くまで男視点の感想だけど「疎外感を感じない」のである。理解し得ない存在だとして突き放されていない。ケンダムの男たちもマテル社の人間も、ファニーでキュートでファンタジーな存在として描かれる。だから観やすいし、単純に映画のことを心から「好きになりやすい」ように思う。こういうテーマ性の映画にしては珍しく「見てらんねえ」という感覚に陥る時間があまりなかった。

一緒に映画を観に行ったガールフレンドが鑑賞後に「これって男の人は見ててイヤな気持ちにならないの?」と訊いてくれたんだけど、全然ならない。むしろ「ゴッドファーザーで釣れ」みたいな指摘の仕方がクリティカルでブッ刺さる、かつファニーなんでむしろ快感になっていく。ウエストランドの漫才で攻撃対象が自分でも笑っちゃうとき、みたいな。すげえなー。

男性優位な現実社会のミラーリングとしてバービーランドを描く、というアイデアが堅実に物語化されているのに感心する。加えて、その突飛なアイデアを成立させる手腕がなかなか巧み。というか大胆。現実世界とバービーランドが繋がってる仕組みとか、よく考えたらあんま分かんねえところを「まあ、普通に繋がってるっしょ」というテンションで描く。伸び伸びした作劇が良いね。

ラストで主人公が「名前」を獲得するという点で『レディ・バード』や『フランシス・ハ』を思い出す。ついでにバービーは性器も獲得する。これ象徴的だよな。バービーたちになくておれたちにあるもの、死と性器。それなのになぜかバービーとおれたちが共通して持っているもの、性。
やっぱ人間をやっていく上で面倒なことの大半は「死」と「性器」(性ではなく)にあるように思うし、その面倒なことが人間のアイデンティティでもあると思う。生きることの本質はさ、死ですよ。生は死の裏側にある。生きることを試みないといけない……。
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