りっく

バービーのりっくのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.0
冒頭の『2001年宇宙の旅』の力の入りすぎたパロディで度肝を抜かれ爆笑させられるが、それが出オチではなく、きちんと意味を持ったものであることが素晴らしい。HAL9000のごとく、ケンは知恵を獲得し反乱を起こし、バービーはショッキングピンクの箱庭世界を抜け出し「白い部屋」でアイデンティティを見つめる。その流れで観ると、ラストは「スターチャイルド」を連想せざるを得ない。

あるいは、害悪な男性性の象徴のひとつとして登場する『ゴッドファーザー』。それ以外にも男性性の象徴として馬が登場するが、相手に命の危険性を植え付ける『ゴッドファーザー』の名場面のひとつとして、ベッドに馬の首が置かれること連想すると、決して男性性に屈しない作り手の反骨精神のようなものが見え隠れする。ただの馬鹿げたおふざけや能天気パロディだと思われる場面でさえ、その裏側に隠された意味を読み解く余地がある。

またバービーやケン視点で観ると、本作は『2001年宇宙の旅』で宙に放り投げた骨が宇宙船にジャンプカットするように、バービーランドが現実世界にどのような影響を与えたかを確認するという当時革新的だった価値観から現在へのタイムスリップSF要素もある。そこで目にする光景はバービーにとってはある種のディストピアであり、ケンにとってはユートピアである。この対比や反転も面白い。

だが、作り手は過去と現在、バービーランドと現実世界、そして男性と女性というような単純な二項対立で物語に何かしらの結論を付けようとはしない。バービーという女性たち、あるいはケンという男性たちは思考を停止させ、その役割を全うし、繰り返される代わり映えのない日常を全うすればいい。その生き方に疑問を抱くこと自体がタブーである。それは同調圧力そのものであり、自分という存在を殺して生きていくことになる。

そんな大枠としての女性/男性としての役割や固定概念、〜らしさ、〜ならばこうあるべきだという考え方が横行する世の中の生きづらさ。それは男性だから、女性だからという図式で語られるほど単純なものではない。そこからいかに脱却して生きていくかという決意と、能天気に生きていく楽さを捨てて何者でもない自分として生きていかなければならない不安が入り混じっていく。その問題提起や焦点の絞り方が実にスマートで見事だ。
りっく

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