マチュー

天空の城ラピュタのマチューのレビュー・感想・評価

天空の城ラピュタ(1986年製作の映画)
5.0
宮崎駿の描く少年少女がきらいだ。
昔からそうだった。

彼らはあまりにも溌剌としすぎだ。
常に前のめりで、ひたむきに夢を求め、何かあるとすぐ走り出す。
天空の城の、階段の突端に立つ。
あと半歩で宙空に投げ出される位置に、物怖じもせずに毅然と立つ。
いつでも輝いている両の瞳を、震わせることなく目標物にしっかりと向けて、いささかも目をそらすことをしない。

ぼくたち・わたしたちこそが清く正しく元気いっぱいで希望にあふれた純真無垢な少年少女であると、彼らは全身で表現する。
彼らは傲慢なほどに無邪気だ。

その姿はあまりにも眩しく、それを画面のこっちで見ている僕はいつでも居心地が悪い。
昔からそうだった。
僕は置いて行かれている気分になる。
彼らのようには生きられない僕自身への居心地の悪さが、CMの間、僕をソワソワさせる。
いったん再開されれば、あの見事な物語と美しい画面に没頭できるのに。
その傾向は年々、強くなるようだ。

今や、彼らよりも大人になってしまったからだろうか。
彼らのような冒険をすることもなく。
ひどく貧しい人生を送ってきちゃったような気がする。
ああ僕は彼らのように走ったことがあっただろうか。彼らのように笑い、彼らのように飛んだことが。

というわけで今夜もまた、気恥ずかしさと居心地の悪さに打ちひしがれ、CMのときにはぼんやり壁を見つめたり換気扇の下まで行ってタバコを吸ったりして、やっぱり宮崎駿の描く少年少女がきらいだと思った。
彼らがあまりにも美しく、まばゆい存在であるために。
そしてCMが明けるや否やテレビの前に戻って映画を観た。
見事な冒険物語と豊穣なアニメーションの世界を堪能し、破壊されたロボットと、鳥たちに愛されるロボットのために一粒ずつ涙を流した。
バルス。
マチュー

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