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孤高の遠吠のTTのレビュー・感想・評価

孤高の遠吠(2015年製作の映画)
4.5
静岡県富士宮市発の自主製作のヤンキー映画。

不良が出てくる映画なら『クローズZERO』とかあるから別に目新しいくない。しかし、本作はキャスト・スタッフほぼ本物の不良(内半分は逮捕経験アリ)、脚本は不良たちの証言をまとめた実録形式という純度100%混じりっ気なしのヤンキー映画なのだ。

身体に掘った刺青は本物、暴力に慣れている雰囲気も本物、改造単車も本物。俳優が演じたものとは違った素人不良のガチ感は見ものだ。

ストーリーは、やんちゃ青年4人組が悪い先輩から原付を安く仕入れようとしたことから富士宮のアンダーグラウンドに巻き込まれていくというもの。正直言って軸となる話はなく、いろんな出来事の数珠繋ぎ感は否めない。しかし、それでも120分間があっという間に感じられるほど世界観に没入してしまうのは、本物の不良を起用しているからこそ滲み出るリアリティにある。

とにかく台詞や演技に白々しさが微塵もない。監督のインタビューによれば、 配役は顔で選んでいるそうだ。それによって、どんなに演技が上手くなくても、本物の表情と本物の存在感でいつまでも観ていられる。

それにしても、登場人物全員イイ面構えをしている。ライターをいつもいじってるキ○ガイっぽい不良もいれば、それぞれが飴と鞭の役割のコンビ、ヒップホップかぶれな不良が出てくる。硬派で恐い不良ばかりかと思いきや、不良ヒエラルキーの末端にいる小市民的な奴も登場する。多種多様な不良が出てきてホント面白い。

暴力シーンは妙にリアルだった。普通のアクション映画のキビキビした格闘と違い、不良たちはケンカ慣れはしていても戦闘訓練を受けたプロではないので、 無駄な動きがあるし、ゼーゼー言いながらがむしゃらに殴り合っているようにしか見えなかったりする。この辺りは本物の不良が出演しているからこその生々しさなのだろう。また、韓国映画のようなカッコイい飛び蹴りも出てくる。

全編ゲリラ撮影なため、 街中をノンヘルで逆走しつつ爆走したり、コンビニの前で自動車をグルグル走らせたりと 法律的にアウトな場面も多々ある。完全に違法行為の証拠だから、警察とかに見られたらヤバいのによく劇場で上映したものだ。だが、ゲリラ撮影ならではのアナーキーな活気やエネルギーが全編に満ちていて、清々しさすら覚える。

本作の脚本は、監督が地元である富士宮の不良たちから聞いたエピソードを基に書いたそうだ。実際、観ていて嘘臭いとは全く感じなかった。というものも、導入部分にあたる不良の先輩から原付を買うくだりと似たような話を、高校の時に友人から聞いたことがあったからだ。その友人の話だと、彼の知り合いがチャラい先輩から原付を破格の値段で買ったら、その原付が盗難車だった。その先輩は原付狩りをしては転売していたとのこと。

鑑賞中にその話が自分の頭をよぎり、その後の原付窃盗グループや、公園を汚しただけで金を巻き上げようとする右翼の政治団体が出てくる展開などをフィクションだと切り捨てることが出来なかった。とりわけ、青年4人組が見ず知らずの不良から電話で呼び出される場面は激恐。

不良の世界を描きながらも、美化するワケでもなく、蔑むワケでもない距離の取り方も絶妙だ。

本物の不良が出演しているからシリアスな作風の映画だと思う人もいるだろうが、笑える要素もいっぱいある愉快な映画でもある。特に、富士市からやってきた不良狩りコンビが 「隣の晩ご飯」よろしく他人の家に入り込んで食べ物をたかる場面は抱腹絶倒だ。また、テロップやBGMによるおふざけ感も嫌いになれない。「富士宮式先輩技
後輩サーチライト」には笑った、笑った。

いろいろ不満がないわけじゃない。録音が粗くてセリフが聞き取りにくいし、話は練り込み不足で分かりづらい。しかし、本作よりも金をかけておきながら、クソつまらない商業映画が一体何本あるのかということを考えれば、そんな欠点は許容範囲。それに映画の面白さは技術で決まるものではない。それは本作を観れば分かるはずだ。

年末は『フォースの覚醒』を観るも良し。寒いから家でDVDを観るも良し。だが、もしあなたが東京・京都・新潟近辺に住んでいて時間とお財布に余裕があるのであれば、日本の新たな才能が生まれる瞬間を目撃してはいかがだろうか。

少なくとも観て損はしない映画だ。特に、韓国のアクション映画や実録路線の東映映画が好きなら人は絶対楽しめるハズ。個人的には、次回作が気になる日本の映画監督がまた一人増えた。
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