TT

LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版のTTのレビュー・感想・評価

4.5
泣いた。ラスト20分は顔面グショグショにさせられた。涙腺がバカになったんじゃないかと思った。

皆さん、こんなクソ文章を読んでないで、今すぐ観に行って!!

もう傑作云々という枠を飛び抜けて、今を生きるあらゆる人の胸を打つ映画だと思う。別に、完璧でもなければ、50年後も語り継がれていくような作品というわけでもない。だが、東日本大震災によってひたすら翻弄され続けた日本という国の現在、そしてその展望を、ごく小さな世界のシンプルな青春物語のなかに、見事に表現しきっているのは本当にすごい。行き詰まった状況に対する絵空事のようなアンサーではなく、「震災という現実とどう向き合い、この先の未来をどう生きていくのか」を真摯に提示してみせる物語の現代性、加えてそれを体現してみせた主演の若手俳優たちによる実在感と説得力溢れる演技。この4年間であまたに作られてきた震災をテーマにした映画とは、重みや痛みが断然違うのだ。

ストーリーは、福島県の立ち入り制限区域にある母校の校庭に埋めた、タイムカプセルを掘り返すために、震災によって散り散りになっていた小学校のクラスメイトだった高校生たちが、福島を目指す。監督がパンフレットのインタビューで語っているように、本作は『スタンド・バイ・ミー』を意識した通過儀礼的なロードムービーだ。

監督はNHKでドラマの演出に携わっている井上剛。彼の最初の劇場用映画は、『その街のこども 劇場版』だ。この映画は、阪神・淡路大震災から15年目にあたる2010年の1月17日に放送された同名TVドラマの劇場版であるが、主演の森山未来と佐藤江梨子のアドリブによるリアルな演技、台詞だけでなく画でも語るスマートな語り口、震災にどう向き合っていくのかという作り手たちの真摯な姿勢。東日本大震災直前に公開されたというタイミングも相まって、静かな感動を呼ぶ秀作だった。

井上監督が、その次に手掛けたTVドラマが社会現象にもなった『あまちゃん』である。東日本大震災という抗えない自然の猛威によって、絶望のどん底に突き落とされた三陸海岸に位置する架空の町・北三陸市の人々が再び立ち上がり、復興を目指す姿が感動的に描かれていた。

前述であげた、『その街のこども』と『あまちゃん』には共通するテーマがある。それは、過去に起きた震災という未曽有のカタストロフをどう受け止め、どう未来へ前進していくのかという、“悲しみの先の希望”である。

そして、2015年3月10日に放送された特集ドラマの全長版である本作は、“神戸の震災”と“東北の震災”の被害に遭った者たちがそれぞれの過去の傷跡に折り合いを付けるという井上監督がそれまで描かれてきたことの集大成でありながら、前2作が敢えて見せなかった震災による爪痕、『あまちゃん』で橋元愛が目撃した“トンネルの先”をしっかりと見せている作品である。

『その街のこども』のように、本作もドキュメンタリックなタッチで生々しく描いていく。キャスト全員の演技も抑制の利いたトーンで貫いている。だからこそ、登場人物それぞれが隠していた心情を吹き出すシーンがよりインパクトを持って観客に迫ってくる。
また、主人公たちが福島に近づくに連れて、話し方が避難先で使っている標準語から地元の方言へと変わっていくというディテールの細かさも良い。

立ち入り制限区域に到着した主人公たちが最初に目撃するのは、窓ガラスが割れ、電柱が倒れている廃墟と化した町並み。そして、津波によって全てが流され、見渡す限り何もない海岸近辺。そのあまりの衝撃的な風景に、登場人物たちは言葉を発することができず、ただただ失われた町を歩くことしか出来ない。

しかし、悪夢のような現実をひと時忘れさせてくれるようなシーンもある。中盤、主人公たちのリーダー格である朝海が夢で見る、立ち入り制限区域である無人の町でのお祭りのシーンは、この先絶対忘れることはないだろう。本当の制限区域内の町にセットゆ作り、実際にそこに住んでいた方々を呼んでの撮影は、生きることの尊さを声高らかに歌い上げながらも、幻想的で映像の快楽に満ち溢れていた。この途轍もないエネルギッシュさは是非とも劇場で体感して欲しい。

タイムカプセルを見つけたとしても彼らが抱える悲しみが解決したわけではない。なぜなら、震災は未だに終わっていないからだ。だが、彼らは旅を始める前より確実に強くなっている。表情を観れば、それが十分に伝わってくる。

クライマックスで、朝海が避難先の高校で頑なに歌うことを拒み続けてきた、神戸復興を願う歌『しあわせ運べるように』の合唱場面は、涙なしには観れない。正直に告白すると、涙でよく見えなかった。

家族を亡くした悲しみ、故郷を追われる悲しみ。それぞれが抱える悲しみの記憶は大きいし重い。おそらく、他の誰にも分からない。だからこそ、同情でも共感でもなく、他者の想いに対して敬意を払い、まずは受け入れること。そして、自ら考え行動すれば、悲しみの先に希望が見えること。それが世界を変える原動力となるのだと観る者に感じさせる。

もちろん、作り手たちが今作らなければいけないと焦ったが故に生じた粗もある。前半における必然性のないフラッシュバックによる時間軸の操作は如何なものか。過去の回想は、アヴァンタイトル直後の1回で済まして、後は主人公たちが福島に向かう直線構造にすれば良かったのにと思った。また、歌が流れる所で字幕が出るのも止めて欲しかった。どうしてもテレビ的に見えてしまうのだ。

しかし、観終わった後ではそんな欠点どうでも良くなるだろう。作り手・演者、この映画に関わった全ての者たちの想いが強すぎて、欠点をあげつらうことがナンセンスに感じられてくる。

本当に素晴らしい映画だったなと思っていると、劇場には僕を含めて6人しかいなかった。寒いからって家でDVD観たり、シネコンで観るだけが映画じゃないですよ、マジで。
TT

TT