どらこ

孤高の遠吠のどらこのレビュー・感想・評価

孤高の遠吠(2015年製作の映画)
4.2
ガチで手作り感満載のインディー映画。
結論からいうとめっちゃ良かった。
最高だった。


多分、これを見た人の多くが「えっ、なにこれ……」と駄作の烙印を押すだろう。

しかしそれは超ナンセンス。



演技が酷い、脚本が酷い、カメラワークが酷い、演出が酷い、アクションも酷い、などといった感想も普通の感覚だとそうなる。
序盤まで見た時も「ん……?大丈夫かこれ……」と思った。


そんな事はどうでもいい。
結局のところ、映画ってのはリアリティを追求するものだと思ってる。

そういう意味で、この映画はリアリティに突出している。
まるで彼らの日常をそのまま投影しているかのようだった。

ちゃんと物語もあるので、同じリアリティ路線のドキュメンタリーとも違う。


何故この作品がリアリティに溢れてるか。

まず1つ目はキャストが全員本物の不良。
そして全員本名。
役作りという概念はほぼなく、彼らの素の言葉と佇まい、出で立ち、実体験の行動、全てが彼らそのものである。
刺青だってシールではなく本物。
単車だって本人たちのもの。
衣装だって普段の私服。
住所だってみんな富士市と富士宮市。

監督の弟(モトキ役)の親友が本作のユキヤくん。
そのユキヤくんが地元の不良仲間に「映画出てや」と誘い、後輩から後輩へ数珠繋ぎに広がりここまでの大所帯になったらしい。
彼らは当然現役の不良なので、バックレも多発。その度にユキヤくん達がバックれた奴を詰め、それでも逃げる奴は山に攫ったというエピソードもある。
クソおもろい。


キャストの名前をググると、マジでSNSのアカウント(地元友達専用垢)が出てくる。中には映画に登場した友達同士が実際に仲良くしていて、「あっ、彼ら現実にいるんだ」と驚かされた。




2つ目は現場感。
原付をノーヘルで蛇行運転。
原付で反対車線爆走&歩道爆走。
デパートの屋上で拡声器を使い叫ぶシーン。
何台もの族車で一般道を大暴走。
真夜中に中央分離帯でまた拡声器。


憶測で言うけど、多分全部無許可なんだよなぁ……。
だから、バイクで暴走行為するシーンも戸惑う一般人の車とか、ドン引きする一般人とか、全部「本物」なんすよ。
そんな映画見たことある??
すっげー新鮮ですよマジで


特にビルの上から拡声器でセリフをいうシーン、あれも多分無許可なので録り直しが出来ないという状況下でセリフを噛んでしまうという映画では大変貴重なシーンが見れる。
リテイクしてたら通報されちゃうからwww

まぁ無許可ってのは褒められたもんではないけど、俺にはそれが凄く刺激的だったのだ。
え、それはあかんやろ……ってのが沢山あって凄いハラハラできたんだ。




3つ目はセリフ。
総じてキャストは噛みまくる。
そんな映画見たことある??
現実の日常会話でもスムーズに話す人より噛む人の方が多いよね?単語の合間にあー、えー、とかのクッション入れたり。
映画では現実と違いやり直しができるが、この監督はあえてリテイクせずにそのまま流す。そっちの方がリアルだから。
完璧。これこそリアル。
ノリアキばりのリアル。

邦画を見ていて嫌な気分になる要因の1位は、演技の酷さ。長ったらしいセリフをスラスラと言う事がめちゃくちゃあるけど、現実感が皆無。
あー頑張って覚えてきたんだな、って。
現実の人間が喋ってる感じが一切しないのよ。そこで冷めるんですよ毎回。

この映画の豆知識として、キャストの約半分が台本を読まない(読めない?)という破天荒エピソードがある。そういう子には監督がシーンの状況を説明して、あとはフィーリングで彼ら自身の言葉で喋る。それは演技でもなんでもなく、彼らが普段から喋ってる事を再現しているに過ぎない。

この作品はとにかく生の声で喋ってる感が凄く良く伝わる。現実を見ている気分になる。
(あまりにも演技酷い奴が一定数いるけど目を瞑ろう)


ちょっと長くなるのでこれくらいにしとくけど、これでも描き足りないくらい褒めたい。


ーーーーーーー余談ーーーーーーーー
演技が酷く、常にニヤニヤしちゃう癖があるあの子。

あの子は調べたらどうやら映画の途中でガチで失踪しちゃったらしく、中盤以降は登場しない。半グレに詰められて富士宮に住めなくなったらしい……
そこでユキヤ君が女のふりをして出会い系に登録し、失踪した彼を釣って車で拉致ったというとんでもエピソードが現実にあったらしい……


ユキヤくんは撮影中に成人式で日本刀を振り回し現行犯逮捕&20日拘留で撮影一旦停止。

The・リアル。




あとはロケーションの名前がちょくちょく面白い。
元商店街シャッターブルース
有害指定区域シゾーカ県
搾取型商業施設
風営法完全廃止地区


夜の公園で不良を注意するキチガイ一般人も最高。MVP。


映画を見終わったあとに見る制作秘話やインタビューが死ぬほど面白いので鑑賞後は必読。


小林監督の作品は大体同じ顔ぶれのキャストなので、入門編としてこの作品をぜひ見てほしい。
どらこ

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