どらこ

女神の継承のどらこのレビュー・感想・評価

女神の継承(2021年製作の映画)
4.2
めちゃくちゃ久々の更新。

映画を連続で二周したのはかなり久々なので投稿したくなった。

コクソンを手掛けたナ・ホンジン監督とタイのようわからん監督がタッグを組んだ本作は、
コクソンに負けず劣らずの、相変わらず「超禍々しい映画」だった。

まず、パッケージからしてもう一目惚れだった。既に怖い。
劇場で見なかったのを心底後悔してる。

まず土着信仰という概念が怖い。
ていうか宗教がそもそも怖い。

何かを無心で信仰している人の姿が、自分には違う何かに見えて、ひたすら怖くなる。
そんなざっくりとした人の恐怖心をエグい切れ味で襲ってくる。そんな作品っす。



とあるシーンがコクソンとめちゃくちゃ似ているのでググったら、
どうやらコクソンの祈祷師バトルをフォーカスに当てたスピンオフ的な構想があったみたいです。



簡単なあらすじ
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タイの寒村でとある土着信仰があった。
家々、森や山、木々、水田、あらゆるものに精霊が宿るという教え。
日本でいう八百万の神みたいなもん。
それは精霊も宿れば、悪霊もまた然り。

その信仰の偶像崇拝の対象である「バヤン」という女神。
その神は特定の人に宿る事で、村に様々な恩恵をもたらしてきた。
女神バヤンは代々、ある家系の女性を触媒とする。
触媒に選ばれた者は、何ヶ月も生理が続いたり、体調が極度に悪化したりと、
耐え難い苦痛を伴うもそれを乗り越えることで、初めて女神の代弁者となる。

現役の女神の継承者であるニムというオバはんが、上記を語ることから物語が始まる。
しかしニムおばさんは結構な年齢。
そんな中、ニムおばさんの姪である
ミンという若く美しい女の子に、女神の兆候が出始める….

こんな流れ。
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本作は村の宗教に密着し、ドキュメンタリー風に物語が進むモキュメンタリー方式を取っている。
なので基本一人称のカメラ目線。
カメラクルーはセリフも人物描写もほとんどなく、視聴者を当事者に置き換えるような感覚に陥る。


良い行いも悪い行いも、必ず自分に廻ってくる。
それが重大なテーマである、業(カルマ)。


新しく女神に選ばれたであろう若き美女ミンちゃんの、次第に壊れていく描写がリアル。


冒頭のおばちゃんのセリフがかなり重要なので冒頭を凝視するように!
(ヤサンティア家についての説明)


字幕で見ていると、とあるシーンで「オッパイ」を異常に連呼するシーンがあって吹いた。
どうやらオッパイというフレーズはタイ語で「出ていけ!」という意味らしい。
(魔除けのウコンが発見されるシーン)



ーーーーーーーーーここからネタバレーーーーーーーーー
















ニムのとある一言。多分全員背筋が凍ったと思う。

「ミンに取り憑いてるのはバヤン(女神)じゃない。別のなにか、だ。」
このセリフから一気に物語が加速したと思う。


全ての原因は、ヤサンティア家だった。呪われるべくして呪われた一族だった。
あの一族が行ってきた事は、悪意が悪霊として、次第にその土地のあらゆるモノに根付き、破滅へと導いた。
それは精霊の集合体であるバヤンが抑えきれないほどに。

これが業(カルマ)を体現していると思う。



ーーーヤサンティアの罪ーーー

ノイ(ミンのママ、ニムの姉)
罪:神への裏切り、犬の肉
本来の女神継承者だったが、嫌だからという理由で全ての責任を妹に押し付け、あろうことか信仰していた女神
を裏切り、キリスト教に乗り換えたこと。
そして、ペットで犬を飼っているのにも関わらず、己のエゴで禁止されている犬肉を違法に販売。
このババァも中々罪深い。個人的に1番ムカつく。
終盤では、こいつのしでかした業が1番色濃く反映されている。


ミン(若い美女)
罪:堕落
兄貴との近親相姦、自堕落、傲慢などの罪らしいけど、
近親相姦の描写なんてあった??兄妹仲良く写真に写ってたりする程度のはずなんだけど、どうもこれ確定らしい。よくわからん。
ただ、クラブ狂いだったり、職場でヤッたりと、性にだらしないのは見てて明白だったけども。




マック(ミンの兄貴)
罪:自殺
タイは仏教がメイン。仏教の教えで自害は最も愚かな行為で無間地獄に落ちると言われている。
そのためタイの葬式では、労いと感謝の意味も込めて、自殺以外で亡くなった人をかなり明るいムードで盛大に送り届ける。
弔い事というより、祝い事に近い。
自殺は、タイでは「恥、冒涜」などネガティブなイメージが強い。
だから遺族は「バイクの事故死」を装った。
それだけ罪が重いのだろう。
あと近親相姦ね。


ウィロー(ミンとマックの親父で、ノイの夫)
罪:詐欺、放火、殺人、自殺
冒頭のセリフ「工場の経営が傾き保険金目当てで従業員ごと放火、逮捕されて服毒自殺」から。
こいつも大概やばい。
その工場が、あの最後の儀式の現場。この工場に呪い、悪霊が収束しているっぽい。



ミンの祖父
罪:石
労働者に石を投げられ死亡したらしいけどこいつ何か悪い事したっけ?
覚えてないんだけど多分クソ野郎。


ミンの祖母
罪:犬の肉
犬肉の創業者。マジ胸糞悪い。


ミンの先祖
罪:大量虐殺
大昔に大勢の人の首を跳ねたらしい。先祖からして業の深い事を行ってきた、呪いを受けた一族なのである。
この「大勢の人の首」を跳ねたというのは、聞いた瞬間ピンときた。
おそらく、アユタヤ遺跡の事なんじゃないかなぁ?(SWのナブーのモデル)
あそこはビルマの宗教弾圧で大勢の人や僧侶が殺された場所で、そこかしこに首が転がってたという。
実際に行ったことあるけど、首を切られた仏像がマジで大量にあって、割とビビったのをよく覚えてる…。


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そう、つまりこいつらは生まれ持っての業人なのである。
こいつらの血筋が、女神を受け継ぐ家系に入り込んでしまった時点で、全ておしまい。


そして最後に、主人公である女神の継承者ニムも、罪を犯してしまっていた。
罪:信仰心の喪失=女神への裏切り

全ての宗教に関して言えることだが、「信仰」は「力」そのものである。
信仰があってこそ、宗教、即ち神が成り立つ。

「わからないの…..」

あのラストシーンのセリフは、これまでの女神としての自分を否定、
つまり信仰そのものを否定してしまったことになる。

あの言葉を放ったその日、オバはんは死んだ。

女神を裏切ったという、業(カルマ)を犯して。





こんな感じ。



ーーーツッコミポイントーーー
・無理にモキュメンタリーにする必要はなかったのでは?
物語全体、終始めっちゃシリアス。なので、「そんな状況でカメラ回すか!?」というシーンが
5000個くらいある。当事者だったら「カメラ止めろよ!」って間違いなく全員ブチギレてるはず。
特に終盤の儀式以降で、腸とか飛び出す中でカメラ回してんのは流石に不自然。きっちりピントも画角も合わせてるし。
もうそこだけ終始気になりっぱなしだった。


・ミンをちゃんと拘束しろよ
あんな状況なのにある程度ミンに自由を与えている事がまずおかしい。
取り憑かれた後は周りに害を及ぼしまくる彼女だが、管理が甘い。
鍵かけるのも終盤だし…。
特に終盤で儀式が失敗に終わる原因であるミンの脱走はガチで意味不。
失敗が許されないのなら、手足も拘束しないのはなぜ?
赤ん坊のシーンもちゃんと「ここに赤ん坊いるやんけ」って強く主張すべきだし、
錯乱して扉を開けてしまったおかぁさんをまともに静止しなかったカメラクルーの対応も意味不。

これくらい。



2周目は人物の表情の変化やセリフに着目すると伏線だらけで面白い。
特にニムの、ミンに対する表情の変化が凄い。

葬式でぼーっとミンを見てた盲目のババァとかも、2周目でわかる。
盲目だからこそ、見えないものを見てたんじゃないか、と。ミンの中を。

葬式でミンに触れられた時のニムの反応とか、売女といわれたミンの幻聴とか。



コクソンもそうだったけど、相変わらず救われない映画でした….

難解だし、未だに謎が多い….
(ミンの夢に出てきた赤いベストとふんどし巻いた殺人巨人とか)

だけどそこがたまらなくクセになる、そんな作品でした。




唐突にドラえもんアンアンアン出てきます
どらこ

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