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ミモザの島に消えた母のemilyのレビュー・感想・評価

ミモザの島に消えた母(2015年製作の映画)
3.7
30年前に母親が海で謎の死を遂げ、ずっと口を閉じてきたアントワン。しかしいつまでも目を背けて行きていくわけにはいかない。母の死の真相を探るためミモザの島に妹と一緒に訪れる。そこには眠っていたもう一つの母の顔があった。

フランスのノアールムーティエ島、壮大な田舎の景色と包まれるどこまでも澄んだ景色の中、モヤモヤした謎が徐々に徐々に明かされていく。しかしその事件から30年の月日が流れてるのだ。記憶は都合よく塗り替えられて行き、それでも口を閉ざしたものは、その重圧に苦しめられてきた。その時間の重みは大きい。今更そんな真実知りたくないというのが家族の本音であろう。しかし子を持つ親なら自分の行動に誇りを持ちたいだろう。

思わぬ事故からするりするりとアントワンを引きつけて追い詰めていく、真実とウソの狭間で、ますますその真相に虜になっていくさまは、静かながらも空気感をしっかり纏っている。その真摯な姿は徐々に塗り替えた記憶を呼び覚まし、本土と島を繋ぐ道が引き潮の時に現れるように、自然にしかしくっきりと母の死の真相が浮かび上がる。

真相は嘘で塗り替えられて、時間によって何重にも折れ曲がってしまった。その真相にたどり着くアントワンの旅は、自分探しの旅でもある。落としてきたものを拾い集めて、やっと家族と自分の子供たちと真摯に向き合うことができる。それは自分がそうして彼の父親が避けてきたことであり、家族の関係で一番大事なことだ。

サスペルスフルな展開に次第に空気をまといながら展開し、濃厚なヒューマンドラマへと流れ込む。明かされる真相は重いが、それは皆が心のどこかで望んでいた真の家族の向き合いである。妹は閉ざした記憶をほじあける。ずっと誰にも言えなかった鍵を開けるきっかけとなるのが兄の娘のマルゴなのだ。秘密は時間とともに葬られることもあるが、閉ざし重ねた年月の分重石は何倍にも膨れ上がる。見なければ平行線だった家族が、そこに交わる別の家族により保ってきた危うい壁にヒビを入れていく。

誰かが悪いわけではない。亡くなったものを責めることはできない。見て見ぬ振りをしてきた真相が30年を隔て明らかになるその重圧感が背景に溶け込み、濃厚に人との交わりの中でドラマを生み出す。それは前に進むために必要だった時間。見ないように目を背ければ背けるほど、その心の底にあるモヤモヤは皮肉にも意外な形で浮き上がってくるのだろう。
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