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フローラのくりふのレビュー・感想・評価

フローラ(1989年製作の映画)
3.5
【アルチンボルド崩壊】

タイトルは芳しい女性名のようですが、植物群、植物相といった意味ですね。

1分に満たない短編で、いきなり見るとげげ!という印象だけで終わるかも。“植物人間”が朽ちる様を一気に追ったストップモーション・アニメ。

初見は昔々で、シュヴァンクマイエルの初期作と思い込んでいたが、集大成とも思える『闇・光・闇』の後なのね。でも“不自由な人体”というモチーフは共通しています。

“身体だけアルチンボルド”な人間が拘束されたまま、野菜で構成された各部位が崩壊してゆく。一部、蛆がわいたりもするが、様子は腐るより崩れる、が近いですね。

その渦中で、人物は“あるもの”を求めるが、縛られた手が…。

絶望的にも思えるが、トーンは割とあっけらかん。“あるもの”の中身は不明だが、それをぶっかければケロッと元に戻ったり、再生などしそうな気配もある。

何らかの実験中で、植物人間の創造者が入ってきて、それを行う気もするような。

料理っぽくもあったりして。みじん切り。

しかし、かつてチェコ政府による検閲に苦しめられたこの作家なら、“人間の運命や行動が何ものかに「不正操作」されている”ことの表象、と受け取るのが素直でしょうね。

本作においてもアルチンボルドの影響を素直に表していますが、アルチンボルドの「寄せ絵」はローマ帝国の支配による調和と反映を表し、当時の体制を褒め称えるものでした。

それが朽ちるしかない…と描くことは、逆に正常だな、とも思えますね。

人物は無表情だが、やっぱりどこか、あっけらかんとしているのが救いです。

<2023.2.7記>
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