YAJ

ルームのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

ルーム(2015年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

【ROOM】

 いい映画だったな~。これは奥さんが観たいと言ってた作品。関東梅雨入りの日(なのに爽やかな良いお天気)に鑑賞♪

 一応、前宣伝、予告編などで概要は知ってしまっているけど、誘拐監禁という昨今よく見聞きする状況の母子のお話(きっと今も行方不明者の少なからずが同じような境遇にあるのだろう)。7年間監禁されその間に生まれた5歳の息子ジャックと暮らすジョイ(BRIE LARSON)。

  物語はジャックのモノローグから始まる。それは原作を踏襲してのことのようだ。脚本も手掛けた原作者エマ・ドナヒュー。原作は終始ジャックの一人称で語られるが、映画は客観性を意識して母と子の世界観である「部屋」を俯瞰させるように展開するが、視線はジャックからのものだ。
 5歳の彼にとって”部屋”は普通の日常。一見、ただ狭い家に住む貧しい母子の話かと思わせる平和な生活が描かれていくが、どこかおかしいと少しずつ分かっていく。そして物心ついた息子に母親がこの”部屋”と外の世界の関係を語り出し、監禁犯も部屋に現れ状況が分かっていく流れ。恐怖と緊張がじょじょに増幅されていく感じは実に見事で、ホラー映画ばりに恐ろしい。

 知らなかった世界を知り混乱していく様を演じる子役のJACOB TREMBLAYが、これまた見事なんだなぁ~。母親のBRIE LARSONがアカデミー主演女優賞にノミネートされたらしいけど、JACOBも素晴らしい演技だった。題材が重くて暗い、社会的にも重大なテーマなだけに、新しい世界とママの存在をひたすら肯定しようとするジャックの演技に常に救われる映画だった。

 鑑賞したのは、ヒューマントラスト渋谷。
 ビルの7、8階に劇場があり、ガラス張りの吹き抜けのエスカレーターホールが印象的な映画館だ。映画を観終わって暗い館内から出ると、いきなり午後の陽射しが降り注ぐその白いホールに出る。まぶしさに思わず目を細め、まるで「ルーム」を出て初めて世界に出会ったジャックの気分。 
 奥さんと目を合わせて思わず笑ってしまった。



(ネタバレ含む)



 「ルーム」からの脱出劇だけに終わらない、その後の社会復帰への難しい道のりが丁寧に描かれていて実にリアリティがある。脱出劇完了で終わってもいいくらい満足の出来栄えだったけど、その後の母子の様子、周りの家族、世間の対応を描くことで複層的に親と子の関係を見せる脚本が巧みだ。
 原作者ドナヒューが、事件のスキャンダラス性にではなく、極限状態での母性、人間が立ち直る力を表現したかったという思いを、監督のレニー・アブラハムソンがきっちり描いている。

 ニュースを知った一般大衆は家を取り囲み大騒ぎ(ありがちだな~)、今後の生活費が必要とTV出演に踏み切り、取材にきたインタビュアに辛辣な言葉を投げかけられる。「生まれた時に子供を”部屋”の外へ出す(施設に預けるよう監禁犯に依頼する)選択肢はなかったか?」、「子供に父親のことは話すか?」等。聞きたくもない言いたくもない質問にも現実味がある。 

 7年間の監禁の一番の被害者はもちろん主人公のジョイなんだけど、娘を失った家族、それによって(なのかははっきり描かれてないけど)別居している両親、孫の存在を素直に喜べないジョイの父親など周辺の人生もきっちり描かれている。また、ちょっと第三者的にジャックを見守る母親の新しい同居人と愛犬の存在など、細かなところにもリアリティが溢れていて、どのシーンにも意味があって見飽きない。

 ジャックが脱出を試み、保護された時の黒人婦警さん、優しくて頼りがいがあって、しかも勘も鋭く事件性を嗅ぎ取って適確な指示を無線で飛ばすシーンも実にいい! 理想的すぎるのかもしれないけど、さもありなんと思わせるキャスティングなんだな、これが。

 母親のジョイは、7年のブランク、家族との関係修復、社会への復帰への重荷に耐えかね服毒自殺を図る(インタビュアーの鋭い質問で自身を顧み、鬱になることがキッカッケだろう)。それを再び救い出すのがジャックだ。
 自分のお守りと信じて切ることを頑なに拒んできた髪の毛を、一命を取りとめ入院中の母親へ「パワーをおくる」と断髪を決意する。
 自分の母親を、なにがあってもそれを否定しない子どもの強さは、母親がこの世界の、あるいは自身の存在の全ての土台だということを無意識のうちにも知っているからだろうか。涙が出る(でもシーンとして明るくていいんだな、これが)。

 最後に、あの”部屋”へ行こうと言い出すジャックに驚いたが、ジョイと共に廃墟となった”部屋”を再び訪れる。あらかたの家具は証拠物件として警察に押収されているが、備え付けの家具や洗面台など、ひとつひとつに別れの言葉をかけるジャック(毎朝、狭い部屋の中で、ひとつひとつに挨拶をして回っていたシーンをなぞっている)。
 ラストは、ずっと見上げていた外の世界との唯一の接点であるSkylight(天窓)を見上げ、そして”部屋”そのものに別れを告げるジャック。強いなぁ、強いぞ、ジャック。
 その様子と部屋を無言で見つめるジョイも精神的にも立ち直ったと思わせるのは、ジャックの無垢な成長があってこそだろう。

 子によって親が救われても、いいと思う。ジャックがいて初めてジョイは母親でいられる。エンドロールに流れるBRIE LARSONの役名はJOYではなく「MA」なのだ(T-T)
 これはこの母子だけでなく、あらゆる社会、国に於いても子どもたちは宝物であると思わせてくれる作品でもあると思う。
YAJ

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