塔の上のカバンツェル

ジェネレーション・ウォーの塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

ジェネレーション・ウォー(2013年製作の映画)
3.8
中学の時に友人とレンタルした思い出。
2010年代以降のドイツ映像界の躍進を予感させる一品。
大作ドラマ「バビロンベルリン」やNetflixと組んだ幾つかのドラマ企画を経ての一種の集大成となる「西部戦線異常なし」(2022年版)に至るまでのドイツの力量を本作で知った海外洋画好きは多いと思う。

本作映画としてパッケージされてレンタルされているものの、本来は3話構成のミニドラマシリーズなので、映画として観ちゃうとスケールのショボさを感じちゃうかもしれないけども、ドラマ単体としてなら成程どうして。

日本の人民は基本ゴリゴリの西側陣営の民なので、映画に映るww2のドイツとなると基本は西部戦線のイメージになるわけだけど、
当のドイツ人にww2の戦争映画を作らせると傑作戦争映画「スターリングラード」(1993)に始まり、酷い事もしたし、酷い目にもあった、人類史上最大の絶滅戦争たる東部戦線をやっぱり映像化しようとするという。
(本作をその文脈に無理くり当てはめようと試みてみる)


【本作の魅力】

主要な主人公ら5人の友人でもある登場人物たちが、戦争の中で消耗していく様が兎に角描かれる。

その顛末は三者三様で、いづれも印象的な演出がなされていることは特筆すべき。

看護婦に志願するグレタという女の子は、破綻するロマンスをメインに描かれつつ、ユダヤ人を密告するというドイツ人の功罪を諸に背負わされるキャラ。

一方で、その恋人であるヴィルヘルムという名の独軍将校は、ピカピカの軍歴に将来有望な軍人一家の長男である。が、しかし東部戦線の激戦で疲弊していく中で、懲罰大隊送りという軍歴の転落っぷりが破滅していく勇猛なドイツ国防軍のその姿を体現する。

そんな"真っ当な"ドイツ人と真逆をいくのが、ヴィクトルというユダヤ人。排斥される立場で兎に角酷い目にあうユダヤ系ドイツ人である彼が最終的にはAK(ポーランド国内軍)のパルチザン活動に身を挺していくという最も数奇な運命を辿るキャラクターでもある。
このAKに対する描写を巡ってポーランド側では論争になったそうで、歴史をエンタメで描く上でのドイツという国の難しさもやはりあるというもの。

そのユダヤ人を彼氏に持つグレタという女の子はナチお抱えの女優として一転して成功の道を歩みつつ、やはり最期は転落してしまうという。彼女はナチズムへの積極的協力とナチ体制における女性の位置付けのグロテスクさを象徴する存在でもあるので、もう少し掘り下げるべきだったとも。

そして、何と言っても本作を特に印象深くしている存在が、フリートヘルムという若者。
ヴィルヘルムというお兄ちゃんが、出来過ぎな独軍将校なのに対して、彼は出来損ないの一兵卒。
ロシア語も堪能な彼は、戦争に対して最初からシニカルな目線で、戦争ダル〜殺し合いとかナンセンスのスタイルで周りから体育会系の鉄拳制裁を喰らう。
そんな彼が東部戦線の幾多の激戦を経て、いつの間にか隊内で古参兵として虐めてたやつらにも一目置かれて、戦闘も手慣れて立派な歩兵になる一方で、住民虐殺に加担するわ、SSやアインザッツグルッペ(特別行動隊)のユダヤ人狩りに加担するわ、悪逆の限りを経て顔面がどんどん死んでいくという。
彼の最期の選択含めて、ファシズムの戦争に能動的にせよ、受動的にせよ、参加した若者の逃げ場の無い運命に、息苦しい余韻は残ると思う。

彼、フリートヘルムとヴィルヘルムは、"清廉潔白な国防軍”論争への反論としてのキャラクターですね。


【戦争ドラマとして】

第二次世界大戦の独ソ戦に対するドイツ人目線の作品として、ツィタデレ作戦や派手ではないがちゃんと規模感があるソ連軍との戦闘シーンや、住民虐殺などの非道な場面など意欲は凄いとは思う。

1943年なのにソ連兵がパンツァーファストを何故か撃ってきたりと突込み所はあるものの、本作のノウハウが後のドイツ作品の確かな下積みになったわけだし、過去の歴史を描く上で生半可な態度で映画を作ろうとはしない姿勢は、本邦の映像界が向かっていって欲しい道だったなぁとも。
(ただ好戦的な戦争映画を作れって言ってるんじゃないですよ)

フリートヘルムが最終話でスプリングパターンの迷彩スモックを着用しているのは印象深いワンポイト。


【キャストについて】

ドイツ映像界で活躍する俳優陣たち多数。
「バビロンベルリン」でヨーロッパでは確かな知名度のフォルカーブルッフに、出る映画が印象深くなるトムシリングの名を覚えた記念碑的作品でもある。
ドイツ語圏のドラマでバイプレイヤー的によく見かけるルドヴィコ・トレプテはデンマークドラマなどにも出演するなど、活躍の場が広いですねぇ。
本作で残虐なSS将校を演じるシルヴェスター・グロートはハリウッドに進出するなど、彼も本作で広く知られるようになったわけですかね。


後のドイツ映像界に何からの足跡は確かに残した、記憶に残るドイツ産の歴史大河ドラマであります。