青いむーみん

帰ってきたヒトラーの青いむーみんのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
3.9
 ファーストデイとは言え公開から二週間たった金曜夜のレイトショーをほぼ満員にできていることに驚いた。どこかのメディアで取り上げられたのだろうか?コメディ映画だと思って見に来た人はしっかりテーマを受け取れただろうか?
 レイシズムジョークを君は笑えるか?手放しで笑えるか?引っ掛かりがありながらも笑えるか?笑っている自分を君はどう思う?ヒトラーは常に核心を突いていたのではないか?我々こそが優秀で他はその優秀なもののために存在するだけであり、意に沿わないものは抹消するのみ。自分が幸せなら他はどうでもいいという思いが君の心の奥底にはないか?その思いが彼を当選させる。総統にさせるのだ。
 各国にとってもタイムリーな映画であり、選挙権を持つ我々に選ぶ責任を強く感じさせる内容となっている。その要素は原作よりも強く押し出されている。原作ではヒトラーがこの時代に蘇ったらこうするという日常を割りと一般人のままの目線で長く描いているが、映画では早い段階でショービズ界へ入っていく。これは媒体の違いが大きく影響する部分だろう。特に大きく異なるのはザヴァツキというヒトラーの現代の右腕のキャラクター。原作既読で臨むとザヴァツキにはガッカリする。優秀な右腕がおちこぼれツッコミ役となり真逆と言っていいキャラクターとなっている。その彼が原作ではなかったヒトラー現代に参上の真相を探るという役回りを受け、映画の筋を原作とはかけ離れたところへの帰結へ向けていく。ゼンゼンブリンク副局長はキャラクターがよりくっきりしているし改良と言っていい。ベリーニ女史、クレマイヤー嬢はそのまま。俳優で言えばヒトラー役のオリヴァー・マスッチにとにかく賞賛が与えられるだろう。イメージそのもののヒトラーであり、これから当分今作のヒトラーが本物を知らない人達にとっての代替になっていくだろう。撮影技術として手持ちカメラでフェイク・ドキュメンタリー風に撮ったりするのも本当に今ここにヒトラーがいたらという恐ろしさのリアリティを強調していて面白い。
 予備知識として『ヒトラー最期の12日間』を観ておいた方がいいとは言われるが、パロるのは超有名なあのシーンのみなのでどっかのパロディ動画でも観ておけばいい。しかし、一部の人間だけが知っていて笑っているのはなんとも気持ちの悪い思いがする劇場だった。そんなことは置いておいて、今見ておくべき映画なのは間違いないのでロングランすればいいがもう打ち切りの時期も迫ってきているかもしれないので早いうちに観に行ってください。