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風櫃(フンクイ)の少年のどーもキューブのレビュー・感想・評価

風櫃(フンクイ)の少年(1983年製作の映画)
4.2
ある台湾の若者、故郷はフンクイ


 2010年1月24日 11時40分レビュー

 
原作、脚本チューティエンウェン。監督ホウシャオシェン。監督4作目(長編)。

80年代日本に台湾映画ブームを巻き起こしたホウ監督。

初期の作品で、久々の鑑賞。

かなりのレアソフトの為、ビデオ屋で見つけたときはかなり喜んだ思い出あり。

淀川長治さんと対談している姿、にこやかな監督の笑顔。雑誌の評論でホウ監督を知りました。

初期の大傑作「恋々風塵」を見て、その恥ずかしいぐらいの「ピュア」な若者の恋に頭をかちわられたんです。いまでも大好きな作品。

これからもきっと光り続ける作品。

淡々と流れる時間軸、固定カメラ、はじめて見た台湾の風景、まるで未開拓の地で起こる「ラブ」。

小津監督の影響もホウ監督自ら公言しております。

いままで、ジャッキー、ブルースリーしか知らなかったアジア映画。

「恋々風塵」が、とってもびっくりしたんですね!同じアジアの監督でこんなに素晴らしい映画を撮る方がいたなんて、、。

見た当時かなりショックだったんです。ですが、リリースされたビデオが田舎の自分のところには、なかなかありません。のちアジア映画との出会いは、ウォンカ-ワァイ、エドワードヤン、ツァイミンリャンという流れで出会う事になります。

本作は、特に劇的な事や仕掛けも特におこりません。
 
刺激がなさ過ぎて、ひょっとすると見る方によっては、眠くなってしまうかもしれません。

それほどゆるやかに時は過ぎ、カメラは引き気味のロングショット、台詞も少なめ。

クラシックが時に流れ、時は進みます。しかしそのゆっくりとした少年たちのあまりにもありふれた「ユースフルデイズ」になにか「ノスタルジー」的柔らかな心持にさせる映像や心情が

フィルムとフィルムの間の「無言の間」

の中に感じ取れるのです。わかりやすくない、説明台詞のない、いざこざを白黒はっきりさせないドラマツルギーの中にホウ監督の最大の初期の魅力が閉じ込めてあるような気がします。 

それは引きと寄りのアップの絶妙なバランスといいましょうか、風景と人との素晴らしい配置ともうしましょうか、省略とドラマのうまい具合といいましょうか、、。 

物語は台湾の田舎、フンクイ。アーチン率いるふらついた若者達。彼らが、都市部の高雄に出ていくお話です。

アーチンの素朴な顔。(ラグビー選手の松尾選手か麒麟の田村に似ている)
ホウ監督の小津ゆずりのゆっくりしたカットとカットのつなぎめ。引きぎみの風景、彼らのたわいない友情と小競り合い、そして「ラブ」。

静かに広がる風景描写にホウ監督の静かなドラマが波紋をおこす。それは、なかなかたくさんの人には伝わらないドラマ。まるで「小声」のような震えにみえます。

ここではアーチンの見つめる視線であったり、つぶらな瞳だったり、仲良しさであったり、都会と田舎で表現されているように思います。

物語をあまり説明したくないので書きませんが、ホウ監督の本当のリアルな「若い時」を表現した本作。まるでアーチンがホウ監督に見えます。

ホウ監督もご自身のフィルムの中で自信を持って見返せる作品とコメントあり。

のちこの若者のふらついた「不安」「ラブ」「いざこざ」は、

90年代にはいり、ホウ監督大変革作品「憂鬱な楽園」に引き継がれるように見えます。本作もとっても大好きな作品。

「すべての若者の日々」とまではいかないかもしれませんが、本作に表現されたなにかしらの風景やアーチンの行動、所作、そして台湾の風景に台湾の風を感じ、自分の故郷の風景を思いださざるをえない「素朴」で「せつない」、「郷愁」的な心象風景を魅せてもらったように思います。

ある台湾の若者達、故郷はフンクイ。

それはそれぞれ鑑賞者のフンクイ的田舎風情な若い時を思いださせる魅力的で静かなフィルムでございました。

やっぱりホウシャオシェン監督は大好きな作家であることは間違いない事を感じました。


追伸
ホウ監督!もう、あまり世界に出ず(「珈琲じこう」「レッドバルーン」のような作品もいいけど、、。)

台湾に戻って本作のような映画を撮ってもらいたなーと無理な願いをずーっと抱いている自分でした。
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