ガンビー教授

メッセージのガンビー教授のレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
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壮大な話に見えて、すごく小さなストーリーでもある。これは原作が短編だからというのも理由の一つだろう。長編映画には長編小説の尺は長すぎると思う。本作のように短編を基にした方がのびのびと映像化出来るのではないか。

原作未読。というより、本作を観るにあたって読みたかったのをこらえてきた。これから読むつもり。

とりあえず観た直後のとりとめもない印象としては、一見すると『2001年~』などのクラーク系統のようだが、根底にはヴォネガットがある気がする。これ以上はネタバレ……!

で、ヴィルヌーヴの映像は一見するとナチュラル風だが、その実すべてのショットがバッキバキにキまっていて、どこで一時停止してもその映画を代表するショットとして通用しそうな凄みがある。好き嫌いは置いても、それが“凄い”ことは確かだ。

そんなシャープな絵作りによって語られる、いわゆる“ファーストコンタクトもの”のif譚は、きちんと画面にセンスオブワンダーがあって、映像が物語を引っ張っていると思う。これは、原作を愛読する人のイマジネーションに負けないのではないか(先に言ったとおり僕は原作未読ですけどね)。

ヴィルヌーヴという人はずっと「ある一線を超えてしまった人間はどうやって生きていくのか」を描いてきた作家という気がする。その作家性は時に宗教的苦悩と結びついたりもしてきたが、本作ではこういう形を見せるかー、なるほど、と。

個人的にはこの“リアル”な(リアルな、ではなく“リアル”な)映像を構築するヴィルヌーヴが、ブレードランナー2049でどれだけ虚構のほうに飛翔できるのか不安と期待が綯い交ぜ、という感じ。

本作のなかで僕がいちばん好きなショットは、エイリアンが靄の向こうに現れる寸前のところ。何か分からないモヤモヤしたものが画面を埋め尽くし、思わず劇場の観客が身を乗り出してその向こうにあるものを見極めようと目を細めるとき、まだ何物の像も結ばないスクリーンはもっとも深遠な豊かさをたたえて輝くような気がするのだ。

ところで私事だが本作を加えることによって、2017年1月1日から始めたfilmarksのマーク本数が100本に達するようだ。我々が親しんでいる10進法において特別な意味を持つようにも感じられる100という数字にちょうどこの映画が当たった、この事実に何か人知を超えた深遠な意味があるのかは、普通の人間程度の認知機能しか備えていない自分にはよく分からない。
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