うなぎ

溺れるナイフのうなぎのレビュー・感想・評価

溺れるナイフ(2016年製作の映画)
5.0
美しいって残酷だな、レイプ未遂事件もそれによるセカンドレイプも、コウちゃんが神聖視されてるのもぜんぶ美しいからで、それはものすごいエネルギーを持っていて、暴力的に誰かの心を暴き、奪い、そして与える。

大きなエナジイは燃えながら周囲を焼き尽くしてしまうから、きっとこの小さな村では手に負えないのよ、飛んでいく力、それを持て余すのを誰も見たくはないのだ。力が、動力がその目的の通りに消費されるのを望んでいるのだ、だからこれは少年少女たちの姿を借りているにすぎない、世界を覆っているわたしには到底知り得ないなにかどうしようもないものの話だと思わずにいられなかった。

美しいって最低だ、それだけですべてを掠めてしまう、そうやって特別視されることでより特別になってしまう、なにかわからないものに翻弄されているのは彼女たちも同じで、二人だけの閉じた世界ではエナジイがぶつかり合ってどこへも行けない、叫びだしたいほど迸るのは若さゆえの熱?、この手で、やり直してしまうことは簡単なのに、あなたはいつまでもわたしの心に居座るのでしょう、美、それは呪いのような、誰かの祈りを受けて光る、この世界の秘密。


目に見えないエネルギー、みたいなものが最近のわたしの考えごとのテーマで、この映画にもそれをすごく感じた。
魅惑的な美貌も目を覆いたくなるほどの不幸も、そういう大きなものに圧倒されるたび、自分の取るに足らなさが浮き彫りになってゆく感じ。
鑑賞者の目を務めるかなちゃんの気持ち。
どうかわたしの目を惑わさないで、違うところで幸せになっていて、あなたのことを知らなければこんな気持ちにならずに、済んだのにと心の中で焦がれるたび、わたしはわたしの幸せがわからなくなる。

普通が一番だよって笑って流せないよ、必ずわたしはわたしである必要の上でわたしでありたいよ、物語のひとつでありたいよ、そのためなら誰にお前は変だって言われても気にしない。

世の中には出会っていないだけでそんな人たちがたくさんいて、でも今はSNSで簡単に出会えてしまったりもする。
だからこそわたしは、わたしのなかに小さく小さく迸るエネルギーの上流のようなものを見逃さないようにしているのだ。
誰かを好きになることも嫌いになることも、喜びも悲しみも全部、わたしから生まれたかけがえのないものたちだから。
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