さく

葛城事件のさくのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
5.0
観たら確実に気持ちが沈みそうだし、観に行こうか迷い続けていたけれどようやく踏ん切りがついて鑑賞。平日の夜の回なんかにこんなの観たら翌日の仕事に支障が出るレベルで気持ちが落ちそうでしたので…。検索してみたところ、宅間守元死刑囚がモデルのようですね。

三浦友和は人のよいおっさんのイメージしかなかったので、それだけにこの葛城は怖い、ほんとに怖い。観てるだけで胃がよじれる。

飲食店でしょうもないことでキレだす親父とか、引きこもりがちで仕事もない弟とか、表面ヅラは良いけど実のところダメ人間だったりする兄とか、夫への愛情など尽きたのに、今の生活を手放せないし一人で生きてもいけないから我慢しながら家族を守ろうとする母親とか、程度の差や頻度はさておき、それほど珍しいものでもないだろうに、組み合わせなのか、時代のせいもあるのか、どんどん取り返しのつかない道へとつながっていく恐怖。

どこかもう少し早い段階で「ボタン掛け違えているよ」と正せる人がいたら違う結末も見いだせたのだろうか。一人の人間の力では、歪みだした家族の崩壊を防ぐことなどできなかったのだろうか。他人事だと、自分の身には起こりえないと、そう切り捨てるのは簡単かもしれないけれど、人間なんて弱いものだから、一歩間違えばこうなってしまっても(ここまでひどいことにはならないまでも)おかしくはない。

何でもかんでも「社会が悪い、時代が悪い」とは言いたくないけれど、寄ってたかって日本社会の悪い部分を濃縮させて培養してしまった結果の惨劇にも思える。だから彼らが犠牲者だなどとは全く思わないけれど、何かが狂い始めると、悪いことが集まってくるんではないか…。普段の生活では見て見ぬふりをしている悪いものをどんどん呼び寄せているような。

『日本で一番悪い奴ら』とは打って変わって、ほんとに飯が不味そう。いや、確実に不味い。飯が不味くても名作は名作だった。
繰り返し見返したいような映画ではないけれど。むしろ忘れないと気が重くてしょうがない。
さく

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