Narmy

葛城事件のNarmyのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
3.5
静かに歌を口づさみながら、何処か投げやりにペンキを塗り続ける葛城清。
平凡な雰囲気の中、淡々と塗っている清の背後にカメラが移り全景を映し出したとき、私達はこの家に何が起きたのかをうっすらとだけど知ることになる、、

葛城家は高圧的な父親(清)に過保護な母親、大人しい兄に無気力な弟の4人家族。
表面的には幸せにみえる家族にも多かれ少なかれ人には言えない悩みはある。
そう考えれば葛城家は何処にでもいそうな普通の家族の部類に入るということか、、

リビングでの家族の団欒は照明もはっきりと色を映し出すことはなく、違和感だらけの会話とその食事風景にだんだん気分は沈みモヤモヤしてくる。
ストーリーが進むにつれ、少しずつそれぞれの関係性や歪んだ性格、降り掛かった事情が紐解かれていき、違和感が何だったのかを体感しながら気づく。

父親の威圧的な態度だけでここまで家庭は崩壊したのだろうか。
傍から見れば日常の一コマを切り取った一部だけが目に触れるので、少し異常さを感じながらもそういう家庭もあるかもしれない、と流してしまうかもしれない。
でも毎日少しずつじわじわと蓄積された支配と抑圧から生まれた心の闇は家族全てを覆い尽くし、それぞれを外れた道へと押し出すことにつながる。
普通だということと、普通にみえるということとは当然違うわけだけど、何よりも自分は普通なんだと思い込んでいる様子が当人達から感じられ、そのことが無性に恐ろしくなる。

人は家族であっても全てを理解できるわけではないし、子供であっても思い通りになるわけではない。
人との関係は一方通行だけでは成り立たないということ。
相手に良かれと思うことと相手にとって良いこととはこれもまた違うから難しいんだけど、少なくとも清の固執した理想像と独りよがりの家族愛は家族に愛情を伝えるということすら全くできていない。

要所要所にかかる不似合いなクラシック音楽が余計に心をざわつかせ締め付ける。
だから彼を責めるなということには繋がらないという思いと全ての責任が彼にあるのだろうかという少しの迷いに、観終えた後は気持ちがどっと疲れた、、
加えてどの役者もこの違和感しかしない役を上手く演じているから余計にリアリティを増し、答えが見つからないまま頭にこびりついた気持ち悪さだけがどうしても拭えない、、
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