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葛城事件のTSのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
3.7
【加害者の家族に焦点をあてる】79点
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監督:赤堀雅秋
製作国:日本
ジャンル:犯罪
収録時間:120分
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またこれはヤバイものを見てしまいましたね。総じて2016年の邦画は何かとヤバイ。ドロドロとしたタッチが多かった様な気もします。これもそれに漏れずにドロドロとしていて、そして考えさせられる重い映画でありました。三浦友和の迫真の演技に注目です。

子を二人生み、順風満帆な家族生活がスタートしたはずだった葛城家。理想の家族像を求めすぎたが故に父の葛城清は亭主関白のような存在になっていくのだが。。

今作はかの「附属池田小事件」をモデルにしているとされています。葛城家の家の壁には暴言の落書きが描かれていてそれを淡々と塗りつぶしていく清。そう、今作は次男の稔が起こした凶悪な殺傷事件後から始まります。そして随所に過去に戻り、それぞれの人物の心情を描いていくという作りになっています。長男の保はリストラのショックにより自殺、稔は駅で大量無差別殺人を犯し死刑判決、母の伸子は鬱になり病院送り。理想の家族を求めた結末がこれです。そして清の一言「俺が一体何をしたんだ?」が印象的でありました。
恐ろしい事に、やはりこういう立場の人は、自分のしている重大な事に気付かないようです。確かに直接的には清は何もしてないのかもしれない。でも誰が見ても、清の圧力により家族は変形させられてきました。全てが空回り。そして訪れる悲劇の連続。いや、これは他人事ではありません。割とこういう事情を持った家庭は少なくないのではないでしょうか。稔が大量無差別殺人を起こしたのは異例中の異例として、父の圧力に耐えながらも生きていってる家族は少なくはないと思われます。

そして、今作は被害者の目線でなく加害者の目線で描かれています。これが非常に良かったと思いました。大量無差別殺人を起こした家族に同情の余地はないと言われればそれまでですが、やはり加害者の家族も人の子。あらゆる要因があって、それが実行されてしまったのだと言うことを少し理解しておかなければならないのだと思います。まあそれでも稔の終盤の発言にはドン引き。流石に道徳的にそれはないだろと思わずにはいられませんでした。

それにしても終盤の清の全力の謝罪を見て、日本の国民性というか価値観をひしひしと感じ取りました。それは、「加害者の家族、親戚は社会的に全て悪とみなす」という価値観です。実は、以前テレビでしていたのですが、驚く事に海外では必ずしもそうとは限らないのです。例えばテロ組織に入っていた加害者の親がインタビューされていたのですが、責められるどころか慰められている姿があったのです。なるほど、身内が加害者になったというのはその人にとってはこの上ない不幸であり、同情の余地があるということなのでしょう。道徳的にどちらが正しいかとは言えませんが、地域によってここまで考え方が違うのには驚かされました。
話を戻して、結局のところ清は「大量無差別殺人犯の親」というレッテルを一生貼られるということになります。そうなれば確かに先ほどの文句を言いたくなる気持ちはわからないでもないですが、今回に関しては間違いなくあなたのせいだ。と言えるのではないでしょうか。

「附属池田小事件」をモデルにしてるということもあり、この事件の被害者の方が今作を見たら不快に思われるかもしれません。その点においては中々の問題作であると思えますが、あくまで「加害者の目線から見た家族の崩壊具合」ということで割り切って見るのが一番良いのではないでしょうか。
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