りょう

ガタカのりょうのレビュー・感想・評価

ガタカ(1997年製作の映画)
4.2
 最初に観たのは25年前くらいで、かなり久しぶりに観ました。当時でいうところの“近未来”を舞台にしていますが、物語も映像も古臭く感じさせません。
 SF映画なのにアクションや戦闘シーンがなく、平穏な社会を舞台にした2人の青年をめぐる夢と挫折などが心地いい静寂とともに描かれています。ミステリーの要素が強調されていますが、とても穏やか描写とスタイリッシュな映像が印象的で、ユマ・サーマンが演じたアイリーンの美しさとも相まって、少し神秘的ですらあります。
 そんなソフトな表現ですが、物語の本質は出自や障がいを理由にした差別と徹底した優生思想です。遺伝子操作により創作された“適性者”と自然妊娠で誕生した“不適正者”の“身分社会”が形成されています。「遺伝子による就職差別は禁止されている」というようなセリフもありましたが、その“身分”を定めた法体系などはわかりません。“不適正者”の社会保障や格差と貧困の問題がどれだけ深刻なのか…、こういうタイプの映画にありがちなスラム街のような風景も登場しないので、ほとんど辛辣な表現はありません。
 “不適正者”が夢をみられない社会であることは間違いないようですが、他人の生体情報で検体検査が簡単にできてしまうなんて、個人情報の管理はどうなっているのでしょうか。このシーンもカジュアルな雰囲気でしたが、とても恐ろしいシステムを日常の風景のように描いていました。
 演出と脚本のアンドリュー・ニコル監督がどこまで意図したのかわかりませんが、とても芸術的な映像に最恐のディストピアを溶けこませているところが秀逸です。表面的には、“不適正者”である青年が夢を努力で叶えるサクセス・ストーリーのようになっていますが、これを観て何を感じるか、何に気付くのか…、とても意地悪に感受性と価値感を試されているようです。
 DNAの記号であるA・T・G・Cが強調されるクレジットがオシャレだし、劇伴も秀逸で、とても大人な雰囲気のSF映画という意味では、これに追随できている作品が思いあたらない独創的な秀作です。
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