ちゅう

ガタカのちゅうのレビュー・感想・評価

ガタカ(1997年製作の映画)
4.1
誰が不可能と決めるのか。
何が不可能を決めるのか。

SFサスペンスが醸し出すヒューマンドラマだった。


デザイナーベイビーという言葉を聞いたことがありますか?
遺伝子操作によって親の望む能力、性質、外見を備えた子供のことです。
受精卵の段階でそういった特質をデザインするのです。
近い将来こういったデザイナーベイビーが誕生すると言われています。

デザイナーベイビーが生まれるようになるとどうなるか。
みんながこぞってデザイナーベイビーを欲しがるため、生まれる子供の多くがデザイナーベイビーになっていきます。
そうすると、デザインされていない子供、今の感覚で言えば普通の子供が相対的に劣った子供になってしまいます。

デザイナーベイビーを誕生させるにはお金がかかるので、貧乏人は子供をデザインできず、あるいは優れたデザインができません。
デザインされなかった子供は能力的に劣るため貧乏になるという負のスパイラルが起こり、今以上に格差を助長させるのではないかと危惧されています。

そしてこの映画のように、デザインされていない子供は差別を受けるようになるかもしれません。


この映画の大筋は単純で、遺伝子操作をされずに自然に生まれたビンセントが最高の遺伝子を持ったジェロームになりすまし、なりたかった宇宙飛行士になるというもの。
その過程で事件が起こりジェロームになりすましていることがバレるかもしれないというサスペンスになっています。

物語が進むにつれて、この世界に住んでいる人々が縛られているものが浮き彫りになっていきます。
先天的な遺伝子で他人を差別し、自分を制限しているのです。
ビンセントはその縛られているものから必死に逃れようとしていきます。


先天的なものという誰もが逃れられないと思っているものに抗うビンセントの姿は感動的でした。
遺伝子的に完璧だった弟に、ビンセントのためと称して宇宙飛行士は無理だと告げられた時の"僕に何ができるか決めつけるな"という叫びに心が震えます。
差別されている全ての人々の思いのように聞こえるのです。

縛られているものから逃れられた者と逃れられなかった者。
"戻ることを考えずに全力で泳いだ"者だけが世の不条理に抗える。
そんなことを思わずにいられない映画でした。
ちゅう

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