ちゅう

さよならテレビのちゅうのレビュー・感想・評価

さよならテレビ(2019年製作の映画)
4.1
"ドキュメンタリーは現実ですか"

テレビの今を映し出すという名目で始まった東海テレビによる東海テレビ内部への取材。
そこにある現代の闇とそれを切り取る側としてのマスコミのさらなる深い闇。
キャスター、契約社員、派遣社員の三人にフォーカスしながらドキュメンタリーは進んでいく。


何度も映し出される、視聴率という数字に一喜一憂する姿。
それは再生数を気にするYouTuberと変わるところがないように思えた。
劇中でも言われているようにマスコミには、"事実を伝える"、"弱者を救う"、"権力を監視する"という役割がある。
そのマスコミが大資本に支えられ電波を独占する立場でいながらYouTuberと同じ原理で動いていて良い訳がない。
けれど、今のテレビは数字をもとに全ての決定がなされていく。
それは周知の事実だとしても、やはりため息の出るものだ。


冒頭に書いた"ドキュメンタリーは現実ですか"というセリフ。
これは契約社員である澤村さんが言った言葉で、僕はそれを聞いた瞬間、無意識中の核心を貫かれたようでギクリとした。
そもそも僕達は網膜に映し出されているもののどれが純粋な現実でどれが加工を経た虚像なのかについて意識して生きているだろうか。
映画について言えば、フィクションと言われれば"虚像"と認識し、ドキュメンタリーと言われれば"現実"と単純に認識してはいないだろうか。

このドキュメンタリーの最後10分はそこを揺るがす。
今まで観てきたものは現実なのか虚像なのか。
ドキュメンタリーと謳っていても数字を取るためのフィクションだったのではないか。
プロデューサーである阿武野勝彦氏が「露悪的」と評するこの10分がこのドキュメンタリーを秀逸なものにしている。


上映後に直接阿武野さんにネット配信しないのか尋ねたところ、自分を育ててくれた映画館を大事にしたいから配信はしないのだとおっしゃっていた。
ポレポレ東中野で長期イベントとして東海テレビのドキュメンタリーを集中的に上映しているので、東京近郊にお住まいで興味のある方はこの機会に観ておくことをお勧めします。


余談
一年近く映画を観てませんでしたが、これからまた観始めようと思います。
ちゅう

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