シミステツ

走れ、絶望に追いつかれない速さでのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

青春時代の親友、薫が死んだ。薫の死という現実から目を背ける漣。薫の遺した一枚の絵。そこに描かれた「斉木環奈」。彼の大切な存在とは。残した想いとは。漣の知らない薫とは。縋りたい希望とは。

クラブでナンパ、酔っ払いに激昂、居酒屋のトイレの鏡を殴り壊す、押し寄せる絶望。明け方のビルの屋上、差し込む朝日、明日はやってくる。大人はやってくる。大人は絶望か。将来の希望か。飛んでやる。自由に飛び回ってやる。大人へのモラトリアム。薫へのレクイエム。

屋上のシーンはめちゃくちゃよかった。青春を、たしかな今を、力強く、自由に、飛んで、翔んで。

漣は薫の元カノ、理沙子と日本海へ向かって「斉木環奈」を捜し求める。

亡くなってから「お別れ」をする、けじめをつける。踏ん切りをつける。そのための旅だった。薫への想いを、薫との向き合い方を、別れ方を模索する旅。

やっとの思いで見つけた「斉木環奈」は富山のキャバ嬢として働いていた。

「走れ、絶望に追いつかれない速さで」

薫の口にしていた言葉だ。
漣の胸の奥から離れない言葉だ。
そんな言葉は中学生の頃聞いていたビジュアルバンドの歌詞だったという。

絶望はもう、やってきている。漂っている。
絶望がやってきていてはもう遅いのだ。
追いつかれていては、走ったところで無駄だ。
どうすればいい?答えなんかなかった。
だって彼の言葉ではない。彼はもういない。
希望を追い求めたところで。

そんな中、出会った、一枚の絵。
拾った猫、そして空に翔ける飛行機。
父への電話。そして残した絵。
生まれる命。

言葉にはならない、言外の表現が多く、詩的で、捉え切るには難しい印象だが、漣の頭の中を一緒に旅するような気分になれる。彼は何を思い、どう生きるのか。絶望は海で、希望は空で、絶望の色は希望を取り込んでいる。朝はちょっぴり儚げでぼんやりしてて。坂道を自転車で駆け下りると、少しだけ希望に近づける気がした。

絶望から逃げるのではなく、希望を迎えに行こう。