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草原の河のpanpieのレビュー・感想・評価

草原の河(2015年製作の映画)
3.9
「ボンジュール、アン」の後でハシゴした映画。



少し前に観た「ブロークバックマウンテン」の羊の放牧とも違う観たことのない山羊と見間違える様な羊を放牧して冬の間は離れた家で暮らし春が来て雪が溶けたら放牧を始める一家。
今年はいつもより少し早くまだ大地が凍っているうちに家を出て放牧の暮らしを始める。
夫と身重な妻、一人娘の家族の物語。


6歳なのに未だ母親のおっぱいをねだるヤンチェン・ラモは母親のお腹に赤ちゃんがいる事に落ち着かない。
母はまとわりつくヤンチェン・ラモの下にきょうだいが産まれれば遊び相手にもなり楽しいだろうと言うけどヤンチェン・ラモは赤ちゃんに母を取られると思っている。
お気に入りのクマのぬいぐるみも赤ちゃんが産まれたら貸してねと言われ今迄の自分の立ち位置が微妙に変わってきている事に敏感だ。
あまりにこりとも笑わない少女の演技ともつかないじっと見つめる眼差しにそんな不安な気持ちがよく表現されていて彼女のアップが多い。
すごい子だな。
表情で観せる。


ヤンチェン・ラモがあまりにおっぱいを欲しがるので母親が炭を塗って「病気で真っ黒になってしまったからもうおっぱいはあげられないよ」と言うとヤンチェン・ラモは泣き出した。
母親もそっぽを向いてこっそり笑っていたが私もつられて笑ってしまった。
よく下の子が産まれたら上の子は赤ちゃん返りすると聞くがヤンチェン・ラモはまだ下の子が産まれる前からで赤ちゃんが授かる様にと大切にしているお守りの天珠を隠したり赤ちゃんなんていなくなってしまえという感情を隠さない。
私も三つ下に妹がいるのだけど妹の産まれる前はこんなだったかなぁなんて自分の記憶にはないが思ってしまった。


父親がヤンチェン・ラモの祖父にあたる自分の父親と折り合いが悪くもう何年も経つのにその時から孫のヤンチェン・ラモにも会わせずに今に至っている。
そんな祖父も病気で床に伏せっていると聞き気になっているものの知らんふりを決め込んでいる。
祖父は村人から行者様と崇められている僧だ。
ヤンチェン・ラモの家からは川を隔てて遠くの高地に1人で住んでいる。
妻は気にしており幾度となく見舞いに行けと促す。
父は重い腰を上げヤンチェン・ラモを連れて会いに行くのだが祖父の家へ向かう途中凍ってるから渡れるかもと思って渡った川にバイクが落ち見舞いの品も川に落として濡れてしまう。
確かバターとかチーズとか妻が言ってた様な…
バイクが半分沈んで通りかかった人が手伝って引き上げてくれたのにお礼も言わない。
袖は濡れてベロベロに伸びている。笑
祖父の家が見える所まで来て怖気付きヤンチェン・ラモだけを会いに行かせる。
妻から持たされた見舞いの品は濡れていて重くてヤンチェン・ラモには持てないものだからって土に埋めてしまった!
チベットでは親の面倒をみないのは許されないのかたまに出てくる村人?にも父親に会いに行ったか何度か尋ねられ自分は会っていないのに妻にも村人にも会いに行ったと嘘をつく。
なんだこいつ。笑
過去の出来事に今でもこだわって自分が父親になっても父を許してやらない頑固な男だ。
観ていて辟易とした。
過去に何があったのだろう。
でも窪塚洋介と錦織圭を合わせた様なイケメンでなんだか憎めない。笑


ある夜オオカミが羊を襲うのだが子羊が殺された母羊の乳を求めて甲高い声で鳴き続ける。
父が子羊をテントに入れる事を許しヤンチェン・ラモは子羊の世話を焼きペットの様に可愛がって育てる。
子羊もヤンチェン・ラモを母親と思っているのか後を付いて回る。
でも子羊はあっという間に大人サイズに成長しもう乳はいらなくなりもう草を食べるからと父親に群れに放されてしまった。
また友達がいなくなり母親にまとわりつくヤンチェン・ラモ。
益々言う事を聞かなくなった。
その後その子羊を探して回るがなかなか見つからない。
諦めていたある日オオカミに襲われ死んだ子羊の死骸を見つけてしまう。
死骸は日が経っており首にはヤンチェン・ラモが付けたピンクの飾りが付けてあったのだ。
可愛がって育てたあのこだ!
ヤンチェン・ラモはショックでその日から口がきけなくなってしまった。
父と母はその前にこっそりその事を話していたのにあの父親は埋めなかったんだ!
もうほんといい加減だなぁ。
娘に見られない様に気付かれる前になんでさっさと埋めてしまわないの!と思ったがきっとこれを知ったら妻もそう思うだろう。
見舞いの品は埋めるのに。笑
やれやれ…


またヤンチェン・ラモの祖父が入院したと村の人が教えてくれた。
村人は親の面倒も看ないでと陰口を言っているが小出しに祖父の近況を教えてくれるお節介焼きだが有難い存在だ。
一大決心をして父はまたヤンチェン・ラモをバイクの後ろに乗せて祖父の家を訪れる。
その際前に川に落っことして土に埋めた見舞いの品を掘り起こして渡そうとしている!
なんでそんな事思い付くの。笑
品物を写すことはしないけど袋を開けて匂いを嗅いで顔を背けている。
やっぱり食べ物だったんだ!笑
そして川に捨てた…(°_°)


その後バイクでヤンチェン・ラモを乗せて街の病院へ向かう。
チベットの街は以外と人で溢れていて服装がこの家族の様な格好の人はいない。
でも遊牧民の服装は重ね着をしていて素敵だった。
幼いヤンチェン・ラモも首飾りやイヤリングをつけている。
街では皆現代の普通の服装で違いに驚かされる。
駆け付けると祖父は入院しておらず診察をして薬をもらうだけだと分かりほっとする。
祖父とヤンチェン・ラモは前に一度だけ会っただけなのに父が薬を取りに行っている間寄り添い楽しそうに話している。
その様子を遠巻きに見ている父。


父はわだかまりを捨て年老いた祖父と少しずつ向き合って行けそうな柔らかい表情になって来てヤンチェン・ラモが母のお腹の赤ちゃんの誕生を心待ちに出来そうな希望溢れるラストが良かった。


チベットの事はよく知らず観たのだが街の様子から今作は現代だったのかな。
最初に出てたの見逃したかも。
それにしても遊牧民の妻って大変だなぁ。
ヤンチェン・ラモは6歳の設定なのに学校に行っていなくてびっくり!
おっぱいを欲しがるからもっと小さいのかと思っていたから本当にびっくりした。
時々出てくるヤンチェン・ラモをいじめる兄弟しか遊び相手はいなさそうだ。
遊牧民の人口は少ないのかな。
子供は学校に行かないのかな。


初チベット映画。
知らなかったソンタルジャ監督。
あまりにもとてつもなく広い大地の風景に驚きその美しさに感動した。
知らない国の映画ってそこへ行った気持ちになれていい。
祖父の家へ行く道を川が遮っている。
父と祖父を隔てていた川の対岸へ渡る架け橋になったヤンチェン・ラモの成長を願うと共にヤンチェン・ラモが穴を掘って埋めた天珠はどこに行ったのだろうかとエンドロールで思いを馳せつつ無事に赤ちゃんが生まれます様に…そんな事を最後に思った。
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