panpie

ぼけますから、よろしくお願いします。のpanpieのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

お久しぶりです。
フィルマにレビューを全然上げてないのにいいねをたくさんいただきまして、本当にありがとうございました。
時間がかかると思いますが細々とお返ししていこうと思っています。



今作は今年1月に観たのだけど、自分の気持ちの整理が付かず、その時はレビューが出来なかった。
他の映画を観ても心に響かず、響いた瞬間があってもそれは一時(いっとき)で文章がしばらく書けなかった。

昨年の夏、私の母が認知症になった。
今作をご覧になった方は分かると思うが、認知症は会う度に違う事を言ったり覚えていなかったりするので、そんな母に私が戸惑って受け入れる事が出来なかった。
私は父っ子だったと思っていたがそれは小さい頃で、物心ついた時から母と一緒にいることの方が多くて、性格も好きな食べ物も似ているし、物事の考え方も良く似ていて、母からの影響が大きかったんだと改めて気付かされた。
私の中で母はあまりにも偉大すぎて、あまりに近すぎてその事に全然気付いていなかった。
娘を産んで里帰り中も不安でなかなか実家から帰れない私を文句も言わず上げ膳据え膳してくれ支えてくれたり、育児中に忘れていた好きだった映画通いに一緒に行こうと引っ張って連れて行ってくれたのも母だし、胸の中に留めて置けない辛い事も母は黙って聞いてくれた。
母の作る料理が美味しくて私の目標だったけど、今は料理も出来なくなり、もう食べることの出来ない母の手料理の味を思い出す。
私も母親になって結構経つが、まだ母の味は超えられてないんじゃないかな。
それくらい私にとって母は偉大だったんだ。

今日で2回目の今作は最初から号泣していて、皆笑って観ていたけど私の心に刺さりまくった。
今日観に来ている人は私よりもかなり年上の方が圧倒的に多くて、圧倒的に自分が認知症になったら…と気になって観に来た人が多かった様に思う。
時々鼻をグスグスする音も聞こえたが、そうしていた方はもしかしたら介護中か看取ったかななんて思った。
前半の耳の遠いお父さんと認知症のお母さんのやりとりが面白くて笑っている人が多かったけど、そんなやり取りにさえ過敏に反応してしまい、私は泣かされて終始目頭をハンカチで押さえていた。
広島弁が優しくて「ほう」「そうじゃけぇ」を連発する信友家の愛情溢れるやり取りにほっこりした。
方言ていいな。
そういえばお母さん、認知症と診断されても娘にしてもらったら「ありがとう」と言っていたな。
私の母は去年発症した頃が酷くてありがとうなんて言わなかった。
私の母と症状の違いに羨んではダメなんだろうけど観ていてとても羨ましかった。

今日は一日三回の上映だったのだが物凄く大混みで上映館に入りきらず急遽地下の小さなスペースを解放してくれて、それで観ることが叶った。
一日限りの上映は何度か足を運んだがこんなに激混みで上映時間が30分遅れになり文句を言っていた人もいたが、そこで入れないからと帰されていたら今日こんな気持ちになってレビュー出来たかは分からなかった。
主催側も驚いたであろう反響の多さに近年の認知症の多さが頷ける。
皆知りたいのだ。
私は大丈夫なのか、と。
でもそんな事は誰にも分からない。

私は認知症は遺伝するのか考えても答えはないのに、その答えのない未来への不安に囚われ去年はしばらく怯え悩んだ。
認知症の母親に優しい信友監督と違って私は母を受け止められず、私よりも母本人が自分の変化を一番辛く恐ろしく思っている事だろうに、それを分かっていても実家へ向かう足は自然と遠退いた。
好きな映画を心の底から楽しめないのは私が意地の悪い娘だからだと思う様にもなっていた。
映画を観に行く事も嫌になりそんな自分が嫌いだった。
それと正反対に信友監督のお父さんにも負けない程私の父もなかなかなものなのだ。
慣れない家事もこなす様になり、ある時実家へ行ったら父が洗濯物を干したり畳んだりしているではないか!
映画の中でもお父さんがうどんを作ってお母さんに食べさせていたが私の父もよく作るらしい。
母の事も近所の人に隠すと思っていたのに、母が認知症と公言し町内の集まりに連れて行き皆さんがあたたかく接してくださっている様で、父の事を心の底から尊敬し見直した。
そんな風にできる男だとは思っていなかった。
父さん、ごめんね。
私はそんな風になれなかったよ。
認知症でも母と一緒にいたいから施設には入れないって言った時は驚いてしまった。
そんな父の様に考えられない自分に私は蓋をしていた。
今作一度目を観た時と今日二度目を観た時と自分の受け止め方が違っていて溢れる涙を止められず驚いた。

上映後信友監督のトークショーの中で監督は、認知症の親を看取った方のお話をしていて、その方が言うには〝親が命懸けでしてくれる最後の子育て〟なんだそうだ。
監督自身も初めは実家から足が遠ざかっていたそうだ。
それを聞いて私は自分だけじゃなかったんだとまた涙が止まらなくなってしまった。
おかしいけど私だけじゃないんだとわかって正直嬉しかった。
監督は(認知症に)なってしまったものは仕方がないと受け入れたと言っていたけど、私も一年経った今、やっと少し前に進めそうな気がする。
パンフは持っていたからDVDを売っていたら買って帰ろうと休憩中にトイレのついでに売り場へ行ってみたら未だDVD化されてないらしく売ってなくて、そこにいた関係者の女性に何故か「母が認知症なんです」と涙ぐんで話していた。
その女性は以前にお母さんが認知症になり最期を看取ったそうだが、「私は初め受け止められなくて…自分のショックが大きかった」と話してくださりまたもやその場で涙が溢れてしまった。
気持ちがわかると言われそれだけで随分肩の荷が下りた気がした。
嬉しかった。

私事ばかりだが、トークの中で監督はご両親のその後を話しをされた。
お母さんが脳梗塞で倒れてしまって今は入院しているそうだ。
驚いたがお母さんは何とか持ち直してリハビリに励んでいるそう。
良かった!
そうなると俄然お父さんの事が気になる訳で、お父さんはお母さんが入院してしまい、家に一人になったら何も手に付かず一時期ぼーっとしていたそうだが、今は毎日お母さんに会いに病院に行くのが日課になっているそうだ。
良かった!
お父さんに何かあったら!と心配していたので(お父さんの結構なファンだな)、新たなお父さんの〝仕事〟が増えて本当に安心した。
早く家に帰っておいでと毎日励ましているそうだ。
ラブラブだなあ。
腰が直角ぐらい曲がっていたお父さんが手押し車を押しながら毎日30分もかけてお母さんに会いに行っているなんて素敵。

パンフに書いてあったと思うけど、ヘルパーさんが作ってくれた美味しいおかずをお父さんは明日も食べたいからと冷蔵庫に入れておいたら、お父さんが寝ている間に起きてきたお母さんが見つけて食べてしまったというエピソードも認知症あるあるだ。
うちの母は一時期は食べるよりひたすら寝ていてどんどん痩せた。
寝てばかりというのは語弊があるのだが、夜中に起きて何かしている。
そして朝は起きられず私からしたら寝てばかりと思っていた。
私の母は元気な頃は「太るから」と言って食べる量を我慢して減らしていたのに、最近は凄い食欲で驚かされる。
最近の母はニコニコしている事が多くなった。
本当に子供に返ったみたいだ。
歩く時は手を繋いでと手を差し出してくる。
久しぶりに母と手を繋いで散歩に行こうかな。
大好物のケンタッキーを買って。
私の凍った心も一年かかってやっと解凍されそうだ。

監督が言っていたが今作は信友家の物語。
信友家の皆さんの人柄のあたたかさに触れた様な今はあたたかい気持ちで一杯だ。
監督自身の闘病記である「おっぱいと東京タワー〜私の乳がん日記」も是非観たい。
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