けーはち

ドライブサーガ 仮面ライダーチェイサーのけーはちのレビュー・感想・評価

3.9
『仮面ライダードライブ』スピンオフVシネマ。本編の幕間、ライダー中唯一機械生命体“ロイミュード”である“チェイス”の悲哀を『人造人間キカイダー』のようなテイストで描いている。

とある事件で関わった少年に無愛想すぎて怖がられたチェイスは、「人間のような心を持ちたい」と願う。そんな中、全てのロイミュードに平和・幸福をもたらす新指導者を標榜する099“エンジェル”が彼に心を獲得する能力“フェザーサーキット”を与えてくれる。だが、それは自由意志を奪うことで平和を強制し、偽りの幸福感を与える洗脳プログラムだった。

ロイミュード達は、人間と争いながら人間の心を知って進化したいと願う、悩める敵役として本編でも描かれていたが、中でも、彼らのプロトタイプでありながらライダーでもあり、ひときわ硬い表情と無愛想な喋り方をするのがチェイス。そんな彼がやたらと気さくで爽やかに変貌したり、かつての無愛想な自分の振る舞いを回想して羞恥を感じたりする面白い姿が観られる。だが、大詰めで彼を慕っていた少年がエンジェルの手にかかり精神を操られる様子を目の当たりにするや、フェザーサーキットを破壊してかりそめの人間らしさや幸福を捨て「人間に好かれなくてもいい。俺が人間を好きでいさえすれば」「俺は生きとし生けるもの全ての自由のために戦う!」という仮面ライダーの原点とも言える孤独な暗闘に赴き、戦い終わってまた無愛想で少年に怯えられる様子は涙腺に来る。

本筋以外でも「巨匠」石田監督によるシュールギャグ演出、キッズ番組ではできない残酷流血・お色気シーン、さらにはあのハードボイルドな“先輩刑事”ライダーの客演で「こんなコラボが観たかった!」という超特大サービスまである逸品。また、仮面ライダーに一旦変身できなくなることにより、「死神」“魔進チェイサー”として戦う際、超進化態を披露するのも嬉しい。

惜しむらくは、エンジェルの最終目的と「チェイスに人間らしい心を与える」という行為との繋がりがピンと来なくて説得力に欠ける点。また、超進化態と化したハート、ブレン、魔進チェイサーの三人を圧倒しているエンジェルが、あっさり仮面ライダーチェイサーには敗れるというのも話の都合すぎる点(戦いはノリが良い方が勝つと前にモモタロスも言っていたが)。そして、上述した本編&サービス要素に手一杯で、せっかくのVシネなのに(尺を気にせずとも良いはずなのに)アクション要素が薄味な点だが、そこは物語全体が内省的だったから変に派手なアクションを入れづらくなるのも仕方ないかも。……といった諸所の不満点を鑑みても、ライダーのスピンオフVシネ内で相当上位の傑作だと思う。