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香港、華麗なるオフィス・ライフのTTのレビュー・感想・評価

5.0
ジョニー・トーが、出演チョン・ユンファ、シルヴィア・チャンという『過ぎゆく時の中で』の布陣で挑んだ新作は、トーさんがまたしてもトンでもない次元へと突入してしまった大傑作!!

内容は、シルヴィア・チャンが脚本・演出した舞台劇『華麗なるサラリーマンの生活と生存』を基に、ある化粧品会社のオフィス内で起こる愛憎や裏切り、謀略が描かれるミュージカル。 

観る前から、トーさんだから凄いことになってる映画なんだろうと予想してたが、それすらも越えるぶっ飛び具合だった。もう美術、語り口、カメラワーク、何もかもが尋常じゃない。

まず、セットがスゴい。全編セット撮影で、建物がすべて骨組みと透明な壁だけで構成されているのだ。なので、通勤電車も、レストランも、病院もすべてが丸見え。新入社員の部屋に至っては、舞台上にベッドなどの家具を並べただけ。しかも、その後ろ(家の外)では、婆さんだか爺さんがカートを押しているので、より何が何やら状態。

また、オフィス内の小道具が左右対象かつ均一的に配置され、徹底して人工的に作り込まれている。美術を担当したウィリアム・チャンのキャリアの中でもベストな部類だろう。

そんな「丸見え」な世界で登場人物たちは、普通の場面では上司や同僚に対して聞こえの良いことを言いながらも、ミュージカルになると歌って踊って「出世したい。金欲しい。」と自分たち内面をさらけ出す。台湾のミュージシャン、ルオ・ダーヨウのバリエーションに富んだ楽曲も素晴らしい。中でも、リパブリック讃歌(ヨドバシカメラのテーマ曲の元)のカバー曲は、見終わった後も耳に残る。

カメラは腰を落ち着かせて撮ってる時もあれば、クレーンやレールでのショットでは縦横無尽に動き回る。途中出てくるクレーンショットに「こんな撮り方見たことねぇ!」と驚愕してしまった。

絢爛豪華でエネルギッシュさに満ちていながらも、ストーリーは会社とは食うか食われるかの弱肉強食な世界であるという残酷なもの。時代設定がリーマンショック直前というのもまた皮肉的。ここまで意地が悪いと、前作『ドラッグ・ウォー』のクライマックスが可愛らしく見えてしまって仕方がない。

ラム・シューが不在だったのは、ジョニー・トー信者としては残念だったが、観ている間はそんなことどうでも良くなるくらい、世界観や演出に圧倒されっぱなし。

僕的には、『エグザイル/絆』以降のジョニー・トー作品の中で、ぶっちぎりのベスト。ジョニー・トー信者はこれを観ずして何を観るというような一級品。次は3D版で観たいから、どっかの配給会社さんお願いだから公開してください。
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