YAJ

バジュランギおじさんと、小さな迷子のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

【ベタの上塗り】

 つい、先週のニュース。印パで領有権を争うカシミール地方で自爆テロがあったのは記憶に新しいかと。

 普段は意識してないけど、こういう報に触れると「まだやってんだ…」と溜息が出ます。

 学生の頃、パキスタンのラホール側から、印パの国境を見に行ったことがある。衛兵交替だか、その日の関門閉鎖かなにかの儀式をやっていて、パキ側の兵隊を見て、「正装した軍服が立派だね」と同行したドライバーにひと言言ったら、「そうだろう、そうだろう」と喜び、そのあとしきりにインドの軍隊と較べてパキスタンはどうのこうのと、お国自慢を聞かされた。根深い両国の関係、国民感情を肌身に感じたのは、もう30年以上も前の話。つい、「まだ…」と言いたくなる。

 でも、そんな両国だけど、
「この映画は、ヒンドゥー教とイスラム教、インドとパキスタンの対立を終わらせる可能性を秘めている」
 と、主演兼プロデューサーのサルマン・カーンは語る。
 まったく政治色を感じさせないストーリーだったのに、終わってみれば、今、両国に横たわる様々な障壁、誤解、軋轢、意地の張り合いを端的に、そしてコミカルに描きだしており、そんな諸問題を人としてのまっとうな思いと大きな愛だけで豪快にうっちゃる爽快な作品。

 ロードムービー好き、バディもの好き、『Taxi Drive』や『LEON』的な少女と武骨なおっさんもの好きには、たまらん作品。
 もちろん、ボリウッド特有の唐突な歌と踊りあり、コテコテなベタな演出も盛りだくさんだけど、受け取る側も、素直な気持ちと大きな愛で鑑賞すれば、間違いなく感動できる物語。

『PADMAN』といい、インド映画、侮れんっ!!



(ネタバレ、含む)



 主演のサルマン・カーンは、押しも押されぬボリウッドの大スター。『きっと、うまくいく』のアミール・カーンと一緒、1965年生の同い年かぁ。女優さんのカリーナ・カプールも、超有名女優。今は、インドの王族と再婚して云々・・・てな話を、鑑賞後、近所のインド・ネパールカレー屋さんRUBEN Dining cafeに寄ってBickeyさんから教わる。インド映画の後はカレーを食べながらの反省会が良い。ベタの上塗り、上等!(笑)

 閑話休題。
 そんな名優を差し置いて、この映画の成功は6歳の子役ハルシャーリー・マルホートラの存在に尽きる。表情と眼差し、仕草だけで発話障害の難しい役を見事に演じ切った。久しぶりに、ダコタ・ファニング越えの演技(素材?)を見たかもしれない。

 この映画は、ストーリーは単純。迷子になったパキスタン人の子どもを、親の元へ送り返そうとするインド人男性の物語。そこに立ちふさがるのが両国の不和による様々な問題。

 常識的に考えれば、公式機関に委ねる、あるいはマスコミを通じて情報を得る・発信するなど、現実的な解決方法は採れたとは思うが、正直者が苦労を重ね、我慢を強いられながらも正攻法で困難を克服していくお伽話や神話のテンプレートに則り、昔話的なベタな筋運びを展開する荒唐無稽さはある。が、そこはボリウッドというフィルターと、唐突な歌と踊りで煙に撒かれるのを良しとして鑑賞されたい。
 
 でも、そんな正直でまっとうな正攻法が、なによりも強いんだということを真正面から訴えかけている愚直さも、こじゃれた近代的な作品を見慣れた目には目新しい。
 この二人の勇気ある旅に心を動かされたフリージャーナリストが、その姿を報じようと各テレビ局にニュースを流すが、最初は誰もとりあってくれない。そこでジャーナリストの彼が呟く言葉が印象的だ。

「誰も、“憎しみ”には飛びつきたがるのに・・・」

 彼はパキスタン側の話として呟くが、おそらく両国とも対隣国のニュースネタとしては、互いの憎しみの感情を刺激する報道だけが求められているのだろう。現状への痛切な批判に違いない。
 これは、印パキだけの報道姿勢ではない、ということはどこの国のだれが観ても感じることだろう。ちいさな呟きだけど、大きな問題提起を孕んだひと言だった。
 そして、彼は、それに屈せず、一大逆転劇を仕掛けるので、あとは映画を観てのお楽しみ!

 マスコミの報道には恣意的なニュースの取捨選択が、当局の思惑や大衆の欲求など、さまざまな外圧が働くものではあるが、それでも報道による世論喚起のパワーは捨てがたいものがあると思わされる。
 このジャーナリストを演じたナワーズッディーン・シッディーキーの演技にも拍手を送りたいね。

 2人の行動、それを報じる熱い思い、それに感化され心を入れ替えていく両国の民衆が、自爆テロのあったあのカシミール地方の渓谷にある国境地帯に大挙して集うシーンは、大自然の雄大さもあって、これぞエンディングという、あまりにもベタな大団円。
 7000人に及ぶエキストラの中に混じって自分も駆けだしている感覚を覚える。その場所へ心が飛んでいくようだ。圧巻!
YAJ

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