チョマサ

ジャッキー ファーストレディ 最後の使命のチョマサのレビュー・感想・評価

5.0
おもしろかったんだけど、スコアが低くておどろいた。いや、もっと見られていい映画ですよ。すごいことをやってる。

伝記映画だけどかなり複雑なことをやってて、あんまり期待してなかったのを裏切られたのもあってたのしめた。賞レース狙いのよくある実話映画かとおもったらそうじゃない。そうおもったのに見たのは、予告を見たときに今どきフィルムみたいな粒子をかんじる映像でそこに期待したからだった。むしろいまでも伝記映画として見られてるから、ちゃんと評価されてないんだろうか。

撮影は『預言者』などでジャック・オーディアール監督と組んでるステファーヌ・フォンテーヌ。キャストに近寄る手持ちのような少しぐらつく映像が『預言者』っぽい。昔のニュース映像のような粒子や色合いは、当時の撮影技術を再現したり色合いに監督の前作『NO』でつかった技術を利用してるそう。

編集もおもしろくて、ジャクリーンの叫びから入るつなぎかたやケネディ暗殺の出来事とホワイトハウスでの出来事、ふたつの葬儀の様子をいくつも入れ子に繋いでてて難しいことをやってる。

まず、インタビューにやってきた記者に、あなたのメモや発言をチェックすると言い放つはじまりからして、伝記映画をやるつもりはないと言ってるようなものだったのか。これから語られることはすべてジャクリーンに編集されて見せられるもので、実際はどうだったかはあやしいからだ。

いちばん凄いとおもったのが構成で、最初は記者がジャクリーン・ケネディのもとを訪ねるインタビュー形式で回想する話かとおもいきや、それを終盤で裏切ってくる。暗殺から順にものごとを振りかえっていたとおもったのが、実は神父に告白する場面が現在だったことがわかる。いままでの回想は自分がしたことが正しかったかどうか、自分を振りかえるための回想だった。神父に本心を打ち明けるとともにケネディ暗殺の直後のジャッキーの様子と葬式の行進の場面、亡くしたふたりのこどもを父の近くに埋葬する場面がつづくのは盛り上がって見事。しかも神父の前で隠していた本音をうちあけるのは、謎が明かされていくみたいでおもしろい。まだ気づいてないこともあるかもだけど、複雑なことをやっててそれがうまくいってると思う。

こうした構成のために時系列が複雑で、どういった話なのか分からないのが不評の理由なのかなと思うが、見直したらもっとよくなりそうな映画になってる。

ジャクリーンがどんな人間かを、ホワイトハウスの人間との会話で多面的に映してるのもいい。ナンシーとの会話で、信頼してる人間のまえだと見せる様子が印象的だったし、記者とのやりとりで見せるマスコミへの不信感に、ジョンの弟との会話での「僕たちはなにを成し遂げたんだ」っていうところなど、ジャッキーを中心に置いてケネディ大統領がどうして有名になったのかを分析している、ジャッキーがどんな役割を担っていたのかを見せる。きになったのが「世界で権力を持つか、ベッドで権力を持つか」のセリフで、これはケネディ大統領の不倫への言葉なのかな。

振りかえるとジャクリーンを孤独な人間にも描いている。記者の背後にあるのは世間の目で、彼女は世間に対してぜったいに本音を見せない。ホワイトハウスの紹介動画も夫のためもあったかもだけど、彼女自身が夫に「それは虚栄心のためだよ」とやってきたことを否定されたことを話している。ケネディ大統領はマリリン・モンローとできてるうわさもあったし、二度も子供をうしなったことと、さっきの台詞もあって彼女のつらさを分かってくれる人間やなんのために生きてるのかを考えるときもあったんだとおもう。そのつらさはタバコを頻繁に吸う描写やいつも服用してるであろう薬からも推測できる。

この映画は分析や技術的なおもしろさだけでなく、キャメロットの唄にもあらわれてるんだろうけど、ジャクリーンがしあわせだったころを忘れないようにひとりの女が葬儀を通して記憶に残そうとする話、じぶんを救おうとする話でもあったんじゃないかとおもう。100分ちょっとの尺でこれだけのことをやってると思うんだけど、ほんとにすごい映画だと思うよ。

キャストだと、ジャクリーンを演じたナタリー・ポートマン以外だと、ナンシーを演じた『フランシス・ハ』のグレタ・ガーウィグ、インタビュー記者のビリー・クラダップ、神父役のジョン・ハートがすげーいい。
エマ・ストーンも魅力的だったけど、この映画のナタリー・ポートマンの凝った演技もすごい。
チョマサ

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