小波norisuke

さざなみの小波norisukeのレビュー・感想・評価

さざなみ(2015年製作の映画)
4.0
結婚45周年を迎える夫婦に届いた一通の手紙が、夫婦の関係を波立たせていく。手紙は、50年以上も前に死んだ、夫の昔の恋人の遺体が氷山の中から発見されたことを知らせてきた。手紙の内容こそ衝撃的だが、手紙が届いたこと以外は特段に何も起らない。一見すると、夫婦の穏やかな日常が、一日一日、日記のページをめくるように綴られているように思える。毎朝、朝靄がかかったような屋外の光景が映し出されて始まるのが印象的だ。しかし、夫の心は静かに波立ち、夫の変化に気づいた妻も、最初は平静でいようとするが、次第に苛立ちを高じさせていく。主人公である妻の心の動きが緊迫感を持って描写されていて、引き込まれた。

挿入曲はストーリーに寄り添うように用いられているが、背景音楽となる曲はかからない。川の水音、風の音が、妻の心のざわめきを表わすように聞こえてくるのが効果的である。

「ゴーンガール」や「フレンチアルプスで起きたこと」に連なる、夫婦や恋人同士で観ると気まずくなりそうな映画である。どこの男女の関係にも起こりうる、ささいなことから広がっていく亀裂。その描写がリアルで、身につまされて、面白い。どの映画でも、男があまりに無防備だ。本作では、夫婦が思い出の曲でダンスを踊った夜、その後の夫の行動に、それはないだろう、と思ってしまった。

50年以上も前に死んだ女に嫉妬するのは、ばかばかしい。妻は、そう思いながらも、結婚45周年を人前で祝うパーティを間近に控えているというのに、夫の気持ちが氷山の中で凍りついた女のもとにあることが許せない。ついに夫に怒りをぶつけるが、その後の夫のフォローがあまりにもしらじらしく思える。クライマックスのパーティの場面では、鳥肌が立ちそうなくらい、心が凍てついた。

少ない台詞で、非常に生々しい人間の感情を静かに、しかし、スリリングに描いた、脚本と演出が光る。主人公を演じたシャーロット・ランプリングが素晴らしい。

しかし、私は、昔の恋人の写真の要の部分に気づかなかった。ちょっとわかりづらい。
小波norisuke

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