Inagaquilala

ハドソン川の奇跡のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
4.0
映画は飛行機がハドソン川に「不時着水」した後から始まる。

その夜の機長サリーの悪夢。マンハッタンの摩天楼の間を縫うように低空飛行を続ける旅客機。奇跡的に建物を避けながら飛び続けるが、ついに力尽きてビルに突っ込む。911同時多発テロを思わせるシーンだが、これは機長が見た夢だ。

これに続くシーンは、興奮も醒めやらぬなかで、国家安全運輸委員会に呼び出される機長と副機長。委員会は「墜落」と言い、機長は「不時着水」と言い返す。その「不時着水」が判断として正しかったのかどうか、空港に戻ることもできたのではないかと、機長側に不利なデータが提示され厳しい追及を受ける。

ドラマはこの機長側と委員会の対決を軸に進み、その間に回想シーンとしてハドソン川での「奇跡」が描かれる。この構成が秀逸だ。

航空機の登場する映画ということで、大スクリーンのIMAXで観たが、これは普通のスクリーンで観ることをおすすめする。

確かに冒頭の夢のシーンで摩天楼を縫って飛ぶ旅客機の映像は迫力はあるが、それがこの映画の見どころではない。けっして航空パニック映画などではなく、むしろ法廷ドラマのような趣の作品なのだ(このあたり「シン・ゴジラ」に通ずるものがある)。

ラストの公聴会のシーンは圧巻で、最後を締める副機長の言葉もシャレている。

もはや名人芸の域に達しているクリント・イーストウッドの監督業だが、「奇跡」をトレースするのではなく、その裏で葛藤する人間を描くその眼はあいかわらずシャープだ。

原題は機長の愛称である「Sully」。大げさなタイトルをつけた日本の配給会社に罪はないが、けっして「奇跡」についての映画などではなく、「サリー」というひとりの人間を描いた作品なのだ。
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