曇天

ハドソン川の奇跡の曇天のレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
4.0
飛行機事故に遭う確率の低さはよく知っていましたが、それが不時着水を余儀なくされる場合は、波が穏やかな水面である確率、陸地のそばで迅速な救助が可能な場所である確率、エンジンが停止しても残った発電機によって操縦可能な電力が賄える確率、機長がサレンバーガーのように的確な判断を下せて機体を水平に保って着水できる技術を持ったパイロットである確率、これらの要素どれが欠けても命はないのかもしれません。しかも飛行機に乗るたびに事故に遭う可能性は大きくなるので、ますます我々は生死をパイロットに委ねるしかなくなるわけです。

DVD収録のインタビュー映像で納得した点が多かったのでそちらも是非見てほしいです。
このような大仕事の陰にあるのは、長年の経験と体に染みついた勘はもちろんですが、サリー自身がフライト前に準備に準備を重ねる勤勉な人間であることもインタビューで語られています。人事を尽くして天命を待つタイプのプロフェッショナルで、パイロットとして当然の本分であるという認識なのでしょう。しかも劇中の副機長の台詞で、機内設置のQRH(クイック・リファレンス・ハンドブック)に従っていたら間に合わなかったとまで言われているように、マニュアルすら信用できない状況だったことには驚きました。そんな不測の事態にも対応できなければならない仕事ということです。

彼のそのような性分から本人は「奇跡」や「英雄」と祭り上げられるのを嫌がっていたようですね。しかし、時代は2007年からの世界同時不況の只中、市民の生活レベルで嫌なニュースが続いているという状況においては、不幸に見舞われた人にとってこれはただの良いニュースではなくて「希望の光」に見えたそうです。「励まされた」と彼に感謝する手紙が相当数届いたといいます。なるほど、この奇跡はもはや155名の乗客乗員だけのものではないんだという点には気づきませんでした。

そういえば『キャピタリズム マネーは踊る』にもサリーが出てきて、パイロットの給料の低さが言及されていたのを思い出した。その後待遇は改善されたんだろうか。そんな真面目に働く全てのパイロットを称える意味でも必要な映画化でした。
ラストの追及シーンでは「そうだ!そうだ!」と連呼、音声シーンでは秒数を数えて腕を突っ張ってました。実録飛行機事故映画でエキサイトできるという奇跡です。クレジットはほっこりします。
曇天

曇天