クシーくん

ソウルの休日のクシーくんのレビュー・感想・評価

ソウルの休日(1956年製作の映画)
3.3
朝鮮日報の記者であるジェグァンと産婦人科医のヒウォンは互いに多忙な日々を送る新婚夫婦で、やっと久しぶりの休日が取れた二人。
妻、ヒウォンは一日中ソウル市内を回る楽しいデートを提案するが、出かける直前になって、夫、ジェグァンが今追いかけている強盗殺人事件について知るという、匿名の人物からの電話がかかってくる。
1時間だけデート出発を延期してもらい、ジェグァンはその人物の指示通り謎の車を追うが…という話。

戦後韓国産メロドラマ。ローマの休日を意識してるのか、作中にもヘプバーンという言葉が出てくるが、共通性は薄い。単なるメロドラマに終わらず、クライム・サスペンス要素も加わり、話はあちらこちらへ飛ぶ。よく言えば多彩だが、方向性をやや見損ないがちな趣。色々な夫婦(カップル)が登場し、それぞれの在り方を提示するという点では共通しているか。ややご都合主義的な面もあるが、総じてこの時代の作品としては十分に佳作の部類に入ると思われる。「ソウルの」休日という名に恥じず、ソウル市内の名所旧跡が画面の随所に現れ、実際の所主人公の二人は全く休日を過ごせてなかったのだが、観光映画的側面も感じられた。

男に弄ばれた娘の描写がナチュラルに差別的なのは少し引いた。一方で夫を尻目に若い男と遊ぶ奥様方や、浮気をする夫達に復讐する奥様の会など、戦後派で開放的な描写は微笑ましい。

「男とメロンはわかりずらい」という分かるような分からんようなことわざ面白かった。音楽の面では車を追跡するシーンで謎にかかる「ディック・バートンのテーマ(Devil's Gallop)」、隣の若奥様が若いツバメと密会デートで若者が歌う「オー・ソレ・ミオ」、対する年配の夫が一人寂しくジョニーウォーカーを飲みながら、家のオーディオ(この時代に高級オーディオ!)で聞くラテン・インストゥルメンタルと、西洋音楽の受容も同時代の日本と同様広く受け入れられていたのが窺える。和解した隣夫婦が最後に出かけた伝統的な東屋のお店では、韓国の伝統歌?トロットだろうか?独特のフォークが流れるエスニックの妙もあり。

主人公の奥さんが挙げる理想の休日も、モダンで華やかな都市生活が垣間見られて楽しい。色々あった挙げ句、最後はお互い弁明する余地もなかったけど、二人の間に言葉は要らない、深い絆が強まったのが美しい演出。説明不足とかではない。
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