クシーくん

未完成喜劇のクシーくんのレビュー・感想・評価

未完成喜劇(1957年製作の映画)
3.1
百花運動と反右派闘争の狭間で生まれた、当時の中国としては稀有な政府批判色の強い風刺劇。
数十年ぶりに再会した往年の名コンビ、韓蘭根(ハン・ランゲン)と殷秀岑(イン・シウセン)が長春映画製作所に赴き、製作中の喜劇映画のリハーサルに参加する。出来上がった三つの短編喜劇は製作所の職員達を沸かせるが、共産党の検閲官は気に入らず…という話。

本作以前に数多くの映画で共演を果たした、東洋のローレル&ハーディと呼ばれた韓蘭根&殷秀岑コンビが本人役で最後に共演した作品であり、実在の映画製作所が舞台になっている点からも分かるように、虚構性が希薄で当時の映画業界の現状を強く意識した作風である。

枠物語的にコンビを主役にした短編喜劇が三本挟まれ、作品それぞれに堅物のつまらない評論家が酷評を下す、というなかなかロックな構成。
一話目は列車で事故死したと思われた男が帰ってきた話、
二話目はパーティ会場で若い女の子にダンスの名人と嘘をついたコンビが、急遽余興でダンスを踊る羽目になる話、
三話目は年老いた母親をあれこれ難癖付けて追い出した兄弟が、実は母親が国宝級の壺を持っており、大金を手にする事が分かり慌てて母親を家に呼び戻そうとお互いに牽制しあう話。

いずれも民話に出てきそうな話で、特に三話目などはグリム童話に似たような話がありそうだ。一話目を除けば筋は因果応報、つまらない欲をかいて失敗するといった話で、正直それほど面白くもない。検閲官が言ったような右翼的とか教育的意義が薄いとかいうよりも、流石にギャグが古典的過ぎる。コントの内容を通して政府批判という域にも正直達せていない気がする。あくまで風刺としての側面は検閲官が喜劇を評する言動のみに仮託されていて、コメディとしても風刺としてもそれこそ「未完成」な印象。

かようにコメディとしては(私から見たら)面白くない作品なのだが、政権批判の要素が色濃く感じられると見做され、呂班監督は国外追放と映画業界からの永久追放、主役コンビの二人も文革中に殺されはしなかったものの迫害を受けたというくらい、当時の中国で刺激を与えた作品だと言うんだから分からない。検閲官の通称「一棒子」だが、これは”東一榔頭西一棒子”という慣用句から名付けたものだろうか。意味は事にあたる際に大局観に欠け、局所しか見ようとしない見識の狭い様子、人物のことらしいが、これを検閲官の役名にした辺り監督の反骨精神だけは評価したい。時代が悪かったね。
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