TOSHI

ミッション:インポッシブル/フォールアウトのTOSHIのレビュー・感想・評価

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「ハン・ソロ」も「ジュラシック・ワールド」も見送ったため、本作も見送りかと考えたが、劇場で観る映画の参考にしている、キネマ旬報の年間ランキングで、三作の中では一番上位に来そうだという読みで観賞した(ベストテンには、入らないだろうが)。
前作「ローグ・ネイション」と同じ、クリストファー・マッカリー監督がメガホンを執っているが、続編色が強くなっており、設定は前作の二年後だ。冒頭、イーサン(トム・クルーズ)は、愛する妻ジュリア(ミシェル・モナハン)と結婚式を挙げているが、神父がイーサンの隠された姿を読み上げ始める。それは夢で、現在イーサンはジュリアと離婚している。
何者かが、IMFから複数のプルトニウムを強奪し、三つの都市で爆発させる計画が浮上する。前作で捕獲された、元MI6であるレーン(ショーン・ハリス)が率いる組織インジケートの残党・神の使徒「アポストル」の仕業のようだ。アポストルはプルトニウムを、世界秩序の破壊を企むテロリスト・ラーク(リャン・ヤン)に売ろうとしていた。IMFのイーサンへのプルトニウム奪回の指令を伝えるテープと、例の「5秒後に消滅する」というアナウンスが、古臭いがお約束だ。タイトルバックには、やはり高揚する。
イーサン、ベンジー(サイモン・ペッグ)、ルーサー(ヴィング・レイムス)のチームは、闇の商人と先に取引しようとするが、そこにアポストルが現れ、イーサンがルーサーを庇った事で、プルトニウムを奪われる失態を犯す。優秀なエージェントで、任務を冷徹にこなしているように見えるイーサンだが、情にほだされ失敗して窮地に陥ったり、ここぞという場面の判断で、正義感や良心との呵責になるのが、本シリーズの一つのポイントだろう。
ラークに直接接触するしかなくなった、イーサンだが、上部組織CIAの長官になった、スローン(アンジェラ・バセット)によって、監視役・ウォーカー(へンリー・カヴィル)を付けられ、しかもラークは、武器商人であるホワイト・ウィドウ(ヴァネッサ・カービー)をアポストルとの仲介役にしているという厄介な状況となる。更に、CIA長官からIMF長官になった、イーサン達に否定的なハンリー(アレックス・ボールドウィン)や、前作から登場した、MI6の諜報員でレーンの殺害を図りながらも、イーサン達を助ける謎の美女・イルサ(レベッカ・ファーガソン)も絡み…。イーサンは、ウィドウの兄の手下と警察の両方から追われるが、誰が敵とも味方とも分からぬ状況の中、あらぬ疑いまでかけられ、ピンチの連続の展開となっていく。

核爆発で世界秩序の混乱を図るという企みは既視感があるが、プロットが複雑で手が込んでいる。そしてとにかく、アクションが凄い。スカイダイビング、カーチェイス、ビルの屋上を伝った追跡劇(例のクルーズが骨折したシーン)、そしてヘリコプターチェイス。オーソドックスだが、それぞれを極めた最高峰のアクションが堪能できる。私は映画におけるアクションは、アイディアの勝負であり、リアリティは補完的な要素と考えるが、全てノースタントでクルーズ本人が演じているのが凄まじい。スカイダイビング等、非常に危険な割に、ストーリー上必須とは思えないようなシーンもあり、クルーズの本作のアクションへの情熱は、狂気じみているとも思える。撮影が終わって、生きているのが不思議な位だ。そんな年齢と逆行するような、今迄以上に難度の高いアクションに挑む事で、映画としての計算を上回るような瞬間が生まれており、この点では、シリーズ最高傑作と言っても良いだろう。
このように体を張ったアクションの観点では最高なのだが、本シリーズの“インポッシブル”とは本来、こういう方向性ではないのではないかという違和感があった。一作目の、CIA本部から極秘情報を盗み出す事を狙い、侵入者を体温感知する最高度のセキュリティを突破するため、イーサンが天井からぶら下がったままデータをコピーするシーン。チーム一体で知力と体力をフル稼働させなければ突破できない、あのような難関こそが挑むべき対象であり、本シリーズの魅力の本質だろう。そういった本来の方向性とは、乖離しているように感じた。秘密兵器的な、ガジェットの登場が少ないのも物足りなかった。つまり、スパイ映画らしくないのだ。
007シリーズは、作品によって派手さと渋さを往復する傾向があるが、本作はシリーズの中でも、イーサンの超人的アクションが最大限にフィーチャーされた、派手に振り切った作品と言えるかも知れない。

「Ⅲ」で結婚したジュリアが意外な形で登場し、イーサンへの想いを伝える感動的なセリフもあるが、今後もシリーズが続くなら、イーサンの人間性・内面性を掘り下げた作品が観たい。思い切って、ダークな作風にしても良いのではないか。そして知力と体力を駆使して挑む、本来のインポッシブルなミッションを追求した作品を目指してほしいと思う。
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