YosukeIdo

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場のYosukeIdoのレビュー・感想・評価

4.0
感想を以下ブログ「シネフィル倶楽部」にて掲載中。

■アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場
http://ameblo.jp/cinefil-club/entry-12240034870.html

現代の戦争を描き出した傑作のご紹介。

ある一つの軍事作戦の始まりから終わりを、ほぼリアルタイムに近い形で描いており、正に「臨場感溢れる」と表現するのに相応しい映画。

誰もがニュースやネットで知った気になっている物事を眼前に叩きつけて、横っ面を張られた気持ちにさせる作品です。

終わった後、誰もが大いに「正義」について議論できるはず。

『Eye in the Sky』
[邦題:アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場]
(2016)

普段の日常で「正義」なんて言葉を口にしたり、ましてや議論する事ってあまりないですよね。
むしろそういう言葉は滅多に口に出来ないというか、下手にしようものなら「面倒くさいやつ」というレッテルを貼られかねません。

しかし、この映画を終わった後は劇中の展開やその中で下される決断を巡って、なんの気後れもなしに「正義」について語れる映画だと思っています。

「自分だったらどう考えるだろうか」
「あの決断は間違っているのでは」
「この考え方は正しいと思う」
「何が正義で何が悪か?」

エンドロールが終わった後、そんな疑問や問いかけ・想いが胸に去来します。


そして、映画として面白い点の一つが、戦争版『96時間』とも言える作品だというところ。

劇中で起こる出来事は見方によっては一つでして、ある軍事作戦の始まりから終わりのみを描いていますが、それをほぼリアルタイムで描いていくので、通常の映画より格段緊張感や臨場感があります。


それではいつもの如くあらすじから参りましょう。

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■『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』あらすじ
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イギリスの首都ロンドン。

英軍のキャサリン・パウエル大佐は、国防大臣のフランク・ベンソン中将の元、アメリカ軍のドローン「リーパー(MQ-9)偵察攻撃機」を使い、英米合同テロリスト捕獲作戦を指揮していた。


上空2万メートルを飛んでいるリーパー型ドローンと現地の偵察用小型ドローンにより、ケニアの首都ナイロビの隠れ家に潜んでいるアル・シャバブのテロリストたちを確認した。

当初は捕獲作戦の予定だったはずだった。

しかし現地工作員が操縦する屋内の昆虫型小型ドローンにより、テロリストたちが自爆ベストを着用し今まさにテロを決行しようとしていることが発覚し、状況は一変する。


英米両軍はテロの被害を未然に防ぐべく、テロリストへの攻撃を決定した。

アメリカ合衆国ネバダ州の米軍基地では、ドローン・パイロットのスティーブ・ワッツが、パウエル大佐からの指令を受け、ミサイルの発射準備に入る。


だが、発射準備に入ったその時、目標のそばの路上で少女がパンを売る準備を始めた。

予期せぬ民間人の巻き添え被害の可能性が生じたため、軍人や政治家たちの間で議論が勃発した。

パウエル大佐は、少女を犠牲にしてでもテロリスト殺害することを主張するが、議論は難航する。


そんな緊迫した一刻を争う状況の中、現場でも事態が大きく動き──────



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■物語について
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この物語が終わった後に残るのは「やるせなさ」、です。

そのやるせなさによって決して先進国側を「勝者」的な印象にしていないところが、現代の戦争へ強烈なアンチテーゼとなっていると個人的には思いました。


・イギリス ロンドン 常設統合司令部(軍事作戦室)
・イギリス ロンドン 内閣府
・アメリカ ネバダ州 空軍基地
・アメリカ ネバダ州 ドローン操縦室
・アフリカ ナイロビ テロリストの隠れ家

時たまその他意思決定者(各国首脳)の様子を挟みつつ、物語は上記の5つの場面を行き来することで進みますが、おおまかな構成としては、テロという暴力と正義という暴力を、大きく「現場」と「会議室」の二項対立で「現代の戦争」を描き出しています。
(「現場」はドローン操縦室とナイロビの隠れ家、会議室はイギリス・アメリカの各指揮所)


軍事作戦の中で実際に行われているであろう手続きや承認フロー、関係各所との根回しや調整などを微に入り細に亘って描き、少しポリティカルサスペンスの要素も入れながら、その二者間のジレンマを描くという秀逸な脚本となっております。

そして、そのジレンマこそが本作の核だと思います。

どちらかが正しいのか。
どちらも正しいのか
どちらも間違っているのか。
そして、そもそも何が正しいのか────。

面白いのが、物語のある段階ではこれが正しいと思っていたにも関わらず、リアルタイムで描かれる現場ではどんどん状況が変化していき、その後の段階では先ほど正しいと思っていたものが間違っているのではないかと思える、ということ。

このように、目まぐるしく変わる展開に対して観ている観客の気持ちも二転三転します。

そして「どう二転三転」したか、などを観賞後に人と話すのがいいのではないかと思いました。


発達し過ぎてしまった人間同士の争いは、その過度な発達故の複雑なジレンマや葛藤を抱える結果となり、もはやどちらが勝っても勝者はいないのではないかと思ってしまいます。

こんな事が今日も世界のどこかでは起きているのであろうと思うと、改めてぞっとしました。


それにしても昆虫型ドローンには驚かされた…。


これ精巧に出来ている上に性能もすごいんですよ。
もし自分の周りにいても気づかないだろうなー。


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■ヘレン・ミレン
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言わずと知れたイギリスの大女優ですね。

彼女演じるキャサリン・パウエル大佐が、分かりやすいタカ派のキャラクターとしてこの物語の推進力となっています。


意外に思えるキャスティングですが、これが見事にハマっている。
ハマっているというより、ヘレン・ミレンの存在感やオーラみたいたものがこの役を取り込んでいるといった方が正しいでしょうか。

その他、彼女の出演作で個人的に好きなのは・・・『ヒッチコック』『黄金のアデーレ 名画の帰還』『RED/レッド』『マダム・マロリーと魔法のスパイス』『ナショナル・トレジャー リンカーン暗殺者の日記』『クイーン』などです。

こう観てみると、硬派な作品から『RED/レッド』みたいなブロックバスター系まで、色々と出演するところが好印象です。

とっても上品な方だなぁという印象で、その方が軍人役?!というギャップが本作の予告を最初に観た時の印象でした。
でもそれがフックとなり、本作をいち早く観てみようというモチベーションに繋がったわけです。

そして個人的にこれから日本公開の『素晴らしきかな、人生』が楽しみでなりません。


ウィル・スミス主演の豪華アンサンブル・ムービーですが、彼女は特に重要なキャラクターで出演されるとの事。

楽しみです!


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■故アラン・リックマン
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イギリスの名優の一人ですね。

『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』が遺作となってしまいました。

日本での公開順としては、本作の方が後なので、彼の最後の演技を観るだけでも本作を映画館に観に行く価値があると思います。


「俳優のステータス」のうち、確実に一つに入るのは「世界の多くの人が知っているキャラクターを持っているかどうか」だと思うんです。

この方、元々は舞台俳優としてキャリアをスタートさせており、そちらでの功績や実績の方が大きい方なんですが、それと並行して以下の世界的有名キャラクター(当たり役)を持っているのがすごいですね。

①スネイプ先生(『ハリー・ポッター』シリーズ)

②ハンス・グルーバー(『ダイ・ハード』)

彼の出演作で個人的に好きなのは・・・『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』『モネ・ゲーム』『ラブ・アクチュアリー』『パフューム ある人殺しの物語』などです。

改めてご冥福をお祈り致します。



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■あとがき
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タイトルの「アイ・イン・ザ・スカイ」はその名の通り、上空の目の事でドローンの事を指します。



「ドローン」を用いた戦争を描いた最近の映画に、『ドローン・オブ・ウォー』という近年の作品もあります。
こちらはイーサン・ホーク主演で、どちらかというとドローン操縦士の毎日やその視点を中心に、その苦悩を描き出すというヒューマンドラマに仕上がっていました。

戦争の形態が変わってきている昨今。

同じ題材を扱った映画は今後も多く出てくるのではないかと思っています。
YosukeIdo

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