こたつむり

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場のこたつむりのレビュー・感想・評価

4.3
パン1枚50シリング。

雄大な青空の下で。
風を切りながら飛び続ける“空の眼”。
なんとも爽やかで気持ちが良い作品…ではなく、心が疲労骨折しそうなくらいにストレスが溜まる軍事映画でした。ドローンによって戦術が変わった“現代の戦争”を描きながら、繰り返される究極の選択。まさしく、喉元に刃を突き付けられた感覚。

救うべきは目の前の命なのか?将来の命なのか?
軍人は唯々諾々と従うのが正か?上申は罪か?
国家が優先すべきは人命か?プロパガンダか?
戦争の責任を取るのは誰?官僚?政治家?国民?

そこに正解なんてありません。
各々が各々の立場で考え、選択し、その選択に責任を持つ…。その繰り返し。誰からも強制されることなく自身で意思決定ができる…その自由が存在するだけなのです。勿論“選択しない”という選択もアリです。自らが責任を取れる範囲内ならば、何を選んでも良いのです。

そして、本作が指し示しているのは。
世界を駆け巡る電気信号が人間から“距離”を奪い、遠くかけ離れた場所にあった“戦場”が、すぐ傍まで忍び寄っているということ。そう。世界は狭くなりました。

しかも、自らの手を汚さずに。
モニタを通じて斥候や攻撃が行えるのです。
肉が焼ける臭いも…血の雨が降り注ぐ音も…何も知らずに容易く生命を奪うことが出来るのです。なんとも恐ろしい話ではありませんか。既に僕らの生命は俎上に載せられていたのです。

だから、僕たちも選択しなければなりません。
眼前に拡がる修羅の世界で生きていくために。
武器を取るのか?取らないのか?
守るべきは生命か?それとも矜持か?
いつ空が落ちてくるか分からない恐怖に怯えながら…。

まあ、そんなわけで。
最初から最後まで緊迫感に包まれた作品。
飲み物に手を伸ばすのも忘れるくらいだったので、鑑賞後は喉がカラカラでした。また、かなり重いテーマですからね。どうしても“沈鬱な現実”に引っ張られた感想になりますね。いつものように「監督さんが~」とか「俳優さんが~」とかを書く気にはなれませんでした。傑作であることは間違いないのですけど。

そういえば、来週は衆議院議員選挙。
また、僕たちは“選択”をしなければならないのですね。選択肢は少ないけれど…。
こたつむり

こたつむり