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君の名は。のimurimuriのネタバレレビュー・内容・結末

君の名は。(2016年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

結論から言うとめっちゃよかったですね。
でも気になる箇所もあったのでまず最初に悪いところから書くと、
とりあえずノベライズ本を読んだ上で鑑賞しましたが、なんというか、悪い意味で本作プロデューサーの川村元気の影響が強いと思いました。

主人公の二人は夢の中で入れ代わってるわけですが、瀧くんのスマホの日記の量から推察して、おそらく最後の入れ代わりまでに少なくとも10回ほど入れ代わりが起こっているなかで、かつ二人ともただの夢ではなくお互いが実際に存在していることを確信しているのに、なぜ3年ものズレを認識していなかったのかは、やはり視聴者としては気になってしまいます。この点はノベライズ本でも同様でしたが、もっといくらでもやりようがあったんじゃないかと思いました(例えば夢だから年代の数字を見ても不思議に本人たちは納得してしまうという描写を挟むとか、せめて一年程度のズレにするとか)。そこら辺を有耶無耶にして言及しない感じが川村元気の影響のような気がしました。

とはいえこの作品、オチとしては3年のズレって実はあまり重要なポイントではなかったんじゃないかとも思っていて、というのは、予告編の時点で三葉の「このままだと今夜みんな死んじゃう」という台詞がばっちり入っているので、そこから何か地球規模の大災害が少なくとも一度起こっていることが予測でき、かつ入れ代わりモノとあれば、目の肥えた鑑賞者であれば「あ、これは時間のズレがあるか、あるいはパラレルワールド的な感じなんじゃね? 過去変える系の話じゃね?」と当たりがつくような示唆的な予告編の作りになっているわけで(予知モノという線もあるが、それだと入れ代わりモノでそれをやる意義があまり無いから順当であれば違うだろうなと予測がたつ)、なのでそこでオチとしての意外性を持たせるには少し弱かったように思いました。
あと、図書館で犠牲者を調べるシーンがありましたが、隕石衝突の犠牲者が500人程度であれば、犠牲者目録があの一ページ分の氏名記載量であれだけ分厚いのはちょっとおかしくないか?と気になりました。


まあそれでも音楽と映像でカタルシスも存分に感じられたし、終盤の避難大作戦のエキサイティングな感じは今までの新海誠作品には無いものだったので、その意味では彼の新しい良い一面が見られたんじゃないかなと思います。

総合していえば、ラスト以外こんなにやり尽くされたネタしか入ってないのに、おそらくこの映画は新海誠にしか作れなかったもので、その点にこれぞ新海誠って感じの面白さが看取できる作品ではある(かつての純粋濃厚な新海誠ではないもしても)し、エンターテイメントとしての意識が高く若者向けのサービスカットも今までになく沢山盛り込まれていたので、若い人なら十分楽しめるんじゃないかなと思いました。
個人的には『雲のむこう、約束の場所』が最高傑作だと思っているので、それと比べてしまうと少し残念な部分もありましたが、観て損はないかなと。

あと、正直あまりRADWIMPSが好きじゃないんですけど、本作の主題歌はかなり出来が良く、褒めざるをえません。感動しました。

あと一番よかったのは、ちゃんと二人の間に希望を残す終わり方をしたこと。これは今までの新海誠作品にはないことで、大変よかったと思いました。こういう系で納得のいくハッピーエンドないしは非バッドエンドは非常に難しく、だいたいバッドエンドに逃げる作り手が多いと思うんですが、本作はしっかり二人とも二人の関係性のなかで救われています。これは今までの新海誠作品から一歩前進した点じゃないかなと思いました。
ただ、やはり考えてみると、二人は入れ代わって色々やって交流を深めたことの記憶は思い出すことがないだろうから(だからこそ「ずっと何かを探している」という言葉に表れているこの気持ちがラストで救われるのですが)、それはやはりめちゃくちゃ切ないですね。
お互い理由はわからない、でも誰かを探している、そんでもってその誰かが、出会った瞬間に確信できて、見つけることができたという、失ったものの対価となるかはわからないけれど、とにかくあの瞬間ふたりは探し物をやめることができた、喪失感を乗り越える確実な契機を得られたということは、なんというかものすげーエンドだと思いました。

あと、あの隕石落下の大爆発のシーン、めちゃくちゃ迫力あって最高でした。『風立ちぬ』の大震災ばりに迫力あったんじゃないかと思います。






まとめると、(おそらく)川村元気の影響で「こまけぇこたぁいいんだよ!!」感が従来の新海誠作品より強めに出てきてしまっていることが悪い意味で影を落としている作品ではありますが、やはりもともと力量のある監督さんなので、面白かったです。


ここからは憶測になりますが、この映画、英字タイトルを見ると"your name."になってて、疑問形じゃないんですね。ただ単に「君の名前」。そこが肝だと思っていて、というのは、劇中においてもお互いがまだよくわかってない段階での瀧の問いかけは「おまえはだれだ」という「だれだ」というものになっていて、片やラストの一言は「君の、名前は」となっていて、ノベライズを見てもやはりクエスチョンマークは付いていないんですよね。「だれだ」と人が言う時、発話者はその人のことを知らない。しかし「君の名前は」というとき、あとに続くのは「たしか…」とか「〇〇だったよね」とか、相手のことを知っている、知っていたニュアンスが含意されてくると思うんです。
だからこそ、「君の名は。」というタイトルは問いかけなのではなく、「あなたのことを知っている。あなたはわたしが探し続けていた人なんです」という「表明」や「確信」に近いものなんじゃないかと思います。

最後に、ノベライズのあとがきに感動したので、ちょっとだけ紹介しておきたいと思います。
新海誠監督は、はじめ小説版を書くつもりはなかったが、だんだん気持ちが変わったと言っていて、「その理由は、どこかに瀧や三葉のような少年少女がいるような気がしたからだ」と綴ります。「彼らと似たような体験、似たような想いを抱える人がいると思うのだ。大切な人や場所を失い、それでももがくのだと心に決めた人。未だ出逢えぬなにかに、いつか絶対に出逢うはずだと信じて手を伸ばし続けている人」、そんな人たちのために、監督はこの本を書いたと述べているんですね。いやー最高ですね。
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