岩嵜修平

KUBO/クボ 二本の弦の秘密の岩嵜修平のレビュー・感想・評価

KUBO/クボ 二本の弦の秘密(2016年製作の映画)
3.7
KUBO クボ 二本の弦の秘密[2D・吹替]

字幕版で今ひとつだった人も、もう一回、吹替版で観るのがオススメ!

これ、日本語で観るべき映画じゃないですか!

いや、過去最高クラスに、吹替版の意味がある作品じゃないですか。(ラストサムライやら沈黙やらSILKやらは日本人と海外の人の交流がキーになる作品だから別として)

なんと言うか、吹替版を観た後だと、字幕版が「また人気ある俳優を声優に使ってるけど、勿体ないな!」って、変な吹替が入ったハリウッド大作への文句みたいな小言を言いたくなる感じ。

正直、初見の字幕版では全然ハマれてなかったです。あのKUBOという少年への感情移入が結構キーになる作品だと思うんだけど、全然、気持ちが入らなかった。

でも、吹替版では、流石のベテラン矢島晶子さん。完璧でした。
KUBOそのものになってた。グッと存在のリアリティが増しました。

他にもお母さんを演じる田中敦子さんも、月の帝を演じる羽佐間道夫さんも、どこかで聞いたことある声なんだけど、それぞれに乗り移ってる。日本の声優は声の演技において日本の俳優よりクオリティ高いなぁって実感します。(宮崎駿は、生きてるその人自身の声を乗せたいから、俳優使う的な話もありましたが)

事前に川栄李奈とピエール瀧が声をやるって聞いてて、瀧さんは出る前から何となく役が分かってたんだけど、川栄はどこに…?と思ったら、なるほど姉妹役(しかも片方、別の人なのね)。
2人とも、どうしても顔は浮かんじゃうけど、見事になりきってたと思います。特に、瀧さんについては、すっとぼけた要素も合わせて、完全にマシュー・マコノヒーより上!他の俳優が考えられないくらいピッタリなキャスティングでした。

物語自体も、初見時に何となく流れは掴めていて、感動するであろうポイントも理解出来ていたけど、ほぼ響かなかったのが、宇多丸さん評を聞いてから吹替版を観たら、5割増しでグッときました。
でも、泣くほどではなかったかな。
展開が読めてしまったからかもしれない。

記憶を持つからこそ、人間たりうる。でも、その記憶は実際にあったこととは限らず、誰かが物語るものかもしれない。それでも、記憶をよすがに生きていく。その作られた記憶(物語)自体が喪失を埋め、幸福に向かうことも…みたいな話は奇しくも『ブレードランナー2049』と近しい話かもしれません。

宇多丸さんが言うような『エンジェル・ウォーズ』や『ライフ・オブ・パイ』よろしく、もう1人の語り手が、この作品世界の外にいる…みたいな想像力は働かなかったけど、観方の道しるべをくれる批評ではあるので、2回目に観る人は聴くのがオススメ。

あ、驚愕のモーションキャプチャ技術とかも、全部、手作りだって知ってから観ると感動が増しました。
特に、オープニングの波のシーンとか、あれが全部、紙だって信じられないでしょう。狂ってますわ、

いやー、吹替版をもっと全国のシネコンでかけるべきです!

年末年始にかけて、子どもに是非、観て欲しい一作!


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↓以下は、字幕版を観た初見時の感想


KUBO クボ 二本の弦の秘密

表現自体は面白いが、それが適切なのかという疑問

いよいよアカデミー賞ノミネート作の日本公開ラスト(遅すぎだろ…)作品ですかね。

海外目線で日本をモチーフにした作品ということで不安感がありつつも、予告編で観た映像は面白そうだったので、不安半分期待半分で行ってみたら悪い方に予感的中。

え、これ面白いですか?
(Twitterの映画好きアカウント(映画評論家ではない)が絶賛してるので少し不安)

面白さが分からないというか、1つ1つのゴールに向かうプロセスが乱暴で、処理できないことだらけのまま一気に終わってしまったのは、僕の理解力が足りないからなのだろうか…。

ストーリー自体は単純明快。
まるで友人がプレイするゲームを見ているかのようにスラスラ進みます。

まちなかで三味線片手に物語を紡ぐクボ少年。
とある有名な家系に生まれた彼の父は母方の祖父によって殺され、心に病を患った母と山頂の洞で2人暮らし。
ある日、母の言い伝えを破った彼に忍び寄る刺客。それは、祖父が放った母の妹だった…!

これ以降はネタバレになるので書けないですが、サルとクワガタ(ゴキブリ?)が出てきて、祖父を倒すための三種の神器みたいなの集めるべく、冒険&バトルしていく訳ですね。

その間に意外な展開もちょいちょい有るんですが、その1つ1つがちゃんと描けてないというか。

というか、サルにクワガタとか、昔話要素を出すんだなら、日本人視点では、意味合いを付け加えて欲しい訳ですよ。
桃太郎だって犬(戌)、猿(申)、キジ(酉)を仲間にして鬼(鬼門)退治をしてる訳ですよ。
浦島太郎だって、金太郎だって、単なる創作じゃないんですよ。

そこら辺、なんとなくオリエンタリズムを出すモチーフとして日本を利用してるだけの感じがして、ちょっと嫌な感じ。そこら辺、ちゃんと文献読めば入れ込められるところを雑な引用するのは、どうなのか。

でいて、物語の展開自体は、ひっくり返す場面はあるんだけど、そのひっくり返し方に感情が乗っていかない。
「へー、そうなんだー」っていうくらい。

恐らく多くの人がグッと来ているであろうシーンは分かります。
でも、そこら辺も何か足りない。
もう少し、親子関係をしっかり描いた方が良かったんじゃなかろうか。
(特に爺さんと妹たちは単なるモンスターでしかないし)

ということで、どこを面白がれば良いのかピンと来なかったというのが正直なところ。

でも、ストップモーションアニメでこれを作ったってのは凄いです。

メイキングも観ましたが、1秒で24コマとかどうかしてる。
折り紙の表現とか、実写とアニメの間だからこそ、面白い表現になっているところもチラホラありました。

でも、その他の9割以上は、普通にCGアニメや手描きアニメで実現出来ちゃうじゃんって思うんですよね。
わざわざ苦労して、ストップモーションアニメを選ぶ理由が、ライカ社それを得意としているってくらいしかない。

『コララインとボタンの魔女』も面白かったけど、あれもストップモーションである理由が今ひとつ。
逆に、最近観た『ゴッホ 最期の手紙』は絵画でアニメを作ることに必然性があったんですよ。

昔の人形劇ノスタルジーを与えたいのかもしらないけど、あそこまでスムーズに動いちゃったら、人形であることを想起せず、粗くて表情が薄いキャラにしかなってないと思うんです。

ここら辺、努力が容易に想像できるからこそ、その努力に結果が実ってない感じが残念。

残念と言えば、声優がマシュー・マコノヒーにシャーリーズ・セロンに、ルーニー・マーラにレイフ・ファィンズですよ!
なんだ、この豪華さ!

全く本人たちの顔を想像させないのは流石ですが、それなら彼らが演じる理由は…?声に関しては全く違和感なかったですが、エンドロールで「あの名優が⁉︎」と気付いても、あんまり感慨が無いというか。

ところどころ、こだわりが強いことは分かったんですが、肝心の物語の展開が今ひとつハマれなかった…。

何にも考えなければ楽しめるので、お子さんには凄く良いと思います!
岩嵜修平

岩嵜修平