岩嵜修平

アイアンクローの岩嵜修平のレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.9
こんなに嗚咽したのは久々。こんな話、泣くしかない。有害な男性性は健全な肉体にも精神にも宿る。そして、有害な男性性は人を死なせ得る。親のコンプレックスのために人生を狂わせられる兄弟。感情を押し殺してはいけないと、映画の中身自体で教えてくれる傑作プロレス家族映画。

家族(というか親)に地獄に突き落とされた主人公が、自らが作った家族によって人生を救われる運命の残酷さ。ラストの想像の兄弟シーンと、その後の新たな家族のシーンには、もう号泣するしかない。運命共同体たる家族と、いかに関係を築く(築かない)か。呪いも奇跡もない。全てに理由と原因がある。

特に東京五輪以降、スポーツに人生をかけるなんて愚かと思ってきたが、まずは人生を楽しむべきだし、スポーツをやるなら楽しむことを大前提としてやって行くべき。プロレスは、そもそもにおいてエンタメ性を前提としたものであるにも関わらず、頂点を目指すことを優先した故に、自らの人生を台無しに。

寡作なショーン・ダーキン監督、人間ドラマの演出においては相当な巧者では。音楽の使い方も好きだし無音のシーンも良い。ザック・エフロンは見事な肉体以上にこんな演技できるのかと驚いたけど、『The Bear』ジェレミー・アレン・ホワイトはこんなバッキバキなのか!ハリス・ディキンソンも良かった。
岩嵜修平

岩嵜修平