ひでやん

ゴダールの探偵のひでやんのレビュー・感想・評価

ゴダールの探偵(1985年製作の映画)
3.6
反転する真実と、反復する事実。

赤と白のクレジットが洒落ているなと思っていたら、やたらと引っ張るもんだから、サイレント映画の字幕みたいになるクレジット。冒頭でカメラの横に立つ女性の足が映し出され、そのショットにうっとり。クラリネットをおっ立てた一物のように持ち、それを当時15歳のジュリー・デルピーに吹かせるシーンにびっくり。

パリの一流ホテルを舞台に、ホテルの部屋を取る4組の者たちを描いた群像劇。2年前の殺人事件を追って、刑事である甥とその恋人と共に監視を続ける探偵。借金を抱えるボクシングのプロモーターとその一行。プロモーターに金を貸していて、夫と不仲の妻。そしてプロモーターから金を取り立てようとするマフィア。

何もしない探偵と動き回る刑事は、「今」のホテルで「過去」を追うので、それで犯人に辿り着けるのか?と思った。書店を開こうとするフランソワズと、イカサマ試合を仕組もうとするジムは「未来」を「今」見ているが、「過去」に関係を持った2人。挿入されるビリヤードのシーンは、フランソワズと夫とジムを表しているようだった。

4度の挿入。2つ並んで置かれた赤と白の球、そこに打った球が最初は横を通過し、2度目の挿入で手前に止まり、3度目で横に並び、最後は当たって2つを離す。打った球(ジム)が2つ並ぶ球(夫婦)に徐々に近づき、離しているようだった。

過剰な挿入。ショパンやシューベルトなどを断片的に挿入。ピアノの音に対してジムが「強く弾くな」と言うが、ゴダールは音を強く入れる。それは劇的なBGMではなく、オペラの強弱のようなメリハリ。狭い空間で舞台をするように登場人物が動き回り、物語らぬ散文詩により筋を見失う。

鏡に映しても読めるXやO。「私が裏返しであなたが表向き」という刑事の恋人。「話したくない」と言うと「うわべだけだろ」と言う夫に「裏が表になったみたい」という妻。ジュヌヴィエーヴという別名があるフランソワズ。ひっくり返る部屋番号。それらの反転は人間の二面性であったり光と影であったり、殺人事件の真相であったり。人の数だけ真実はあるが、事実はひとつ。その事実をゴダールは虚構の空間で繋ぎ合わせ、こねくり回し、最後はあっさり片付ける。
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