ひでやん

ラ・ジュテのひでやんのレビュー・感想・評価

ラ・ジュテ(1962年製作の映画)
4.2
過去、現在、未来を行き来する男の運命。

全編モノクロの静止画とナレーションのみで構成されたフォトロマンと称される短編で、『12モンキーズ』の原案にもなったSF。第三次世界大戦後、廃墟と化したパリ。人類存続のために
タイムトラベルの被験者となった男を描く。

時間の流れに穴を開け、そこに意識を飛ばす時間旅行。少年時代に空港で見た光景が脳裏に焼き付き、その過去に執着した男のタイムトラベルは終わりの始まり…。風になびく髪、笑った横顔、安らかな寝顔、指先、うなじ、すべてはモノクロ写真のスライドショー。

体は移動せず、意識だけが時を超える。突然現れ消える男を「私の幽霊」と呼ぶが、意識が現在にある時死んでいる女もまた「僕の幽霊」。映像が持つ「動」の魅力を封じ、「静」で描く時間と記憶。その静の中にある瞬きという刹那の動き。初見の時、女の目覚めを描いたシーンだと思ったが、再鑑賞してただの目覚めじゃないと感じた。

体制を変えながら眠っているが、眠りからの目覚めではなく、死から生への目覚め。男が話しかけると生きる女は、命を吹き返して瞬きしているようだ。数秒の動画で見せる「命」が美しく、そして切ない。重ねる逢瀬の先に逃れられない運命があり、男が巡る時間の円環がなんとも悲しい。
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