小波norisuke

ある戦争の小波norisukeのレビュー・感想・評価

ある戦争(2015年製作の映画)
4.5
監督・脚本が、デンマーク映画「偽りなき者」の脚本家による作品だと知って、絶対観たいと思っていた作品。しかし、そのこと以外の事前情報が、記憶から抜け落ちていたので、映画が始まってしばらく、映し出されている戦場がどこであるのかわからなかった。 デンマークがアフガニスタンに派兵していたことを知らなかった。主人公が誰であるのかを理解するにも時間がかかった。

映画は、戦場の兵士たちと、デンマークで暮らす父親不在の家庭の様子を交互に映し出す。しかし、ある時点で舞台はデンマークに絞られる。主人公が帰国するのだ。アフガニスタンに駐留していた部隊の隊長であった主人公は、敵の存在を確認せずに爆撃を指示し民間人を犠牲にしたという嫌疑によって、軍法裁判にかけられる。問題となった主人公のその指示は、負傷した兵士を救うためには、どうしても必要なものだった。

裁判では倫理が問われる。秤にかけられる、デンマーク兵士の命と、アフガニスタンの民間人の命。命がけの戦闘中に仲間を救うために下した瞬時の判断を断罪することは酷な気がしてしまう。多くの国では、裁判にかけられることすらないだろう。しかし他方で、犠牲となってしまった子どもを含む民間人の命を軽んじてはならない。主人公の有罪を求める法務官も、無罪を求める弁護士も、誤った判決は世界を良い方向に導かない、と主張する。判決が有罪でも無罪でも、きっぱり割り切れない、複雑な思いが残る。

主人公が息子を寝かしつけようと、息子に掛け布団をかけてやりながら、ふと息子の足を凝視する場面がある。さりげない日常の中に、戦争による深い傷が心を突き刺す一瞬を見事に捉えている。

説明を排した淡々とした描写の中に、正義とは何かを真摯に問いかける。心をえぐられた。
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